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2014.09.25

『陰陽師 瀧夜叉姫』第5巻 奇怪にして美しい将門の乱

 早いもので漫画版の『陰陽師 瀧夜叉姫』も、もう第5巻。都を騒がす奇怪な事件の数々は、徐々にその繋がりを見せ始め、その事件と密接な関わりを持っているであろう平将門の乱にまつわる長い長い物語も、いよいよこの巻においてひとまずの終わりを迎えることとなります。

 一連の怪事に襲われた貴族たちに共通するのが、20年前の平将門の乱に関わっていたことだと気付いた晴明と博雅。
 そこで、今なお謎めく将門と彼の起こした乱の真実を、貴族たちから聞き出そうとする二人ですが――しかし、人々の口から語られる将門公は、到底同一人物のものとは思えぬほど、様々な姿を持っていたのでした。

 かくて二人が最後に訪ねたのは、俵藤太こと藤原秀郷…かつて琵琶湖の龍神の頼みに応じて大百足を倒し、名刀・黄金丸を手にした剛勇の士。そしてかつての将門の親友であり――将門を討った男であります。
 そしてこの巻では、ほぼ一冊をかけて、秀郷の語る将門と彼の起こした乱の顛末が語られることとなります。


 将門の乱については、本作も含めて様々なフィクションに取り上げられており、史実も伝説も含めて、その内容は比較的に知られていると言えるでしょう。その意味ではこの巻で語られる内容は、それと大きく異なるものではありません。

 片目に二つの瞳が輝き、刃も通らぬ鋼の体と、六人の分身と併せて七つの身体を持っていたこと。
 その力で破竹の快進撃を見せたものの、愛妾の桔梗御前に裏切られてその弱点がこめかみであることを知られ、そこに秀郷の放った矢を受けて倒れたこと。
 そして首を落とされながらもなおも命を保ち、怨念の言葉を発し続けたこと――

 いずれも将門伝説を彩るエピソードばかりではありますが、本作の漫画化を担当する睦月ムンクの筆は、様々な将門の姿を、そして彼と対峙する秀郷の姿を、時に生き生きと、時におぞましくも恐ろしく、そして時にもの悲しく描き出すことにより、本作ならではの――こうした史実と伝説を踏まえつつも、新たに作り出された奇怪で美しい物語ならではの――将門公とその乱の姿を描き出していると感じます。

 それと同時に、将門と秀郷の直接対決、あるいは将門軍と討伐軍の激突の場面の迫力は想像以上であり、(こう言っては大変に失礼なのですが)ここでこれほどの戦いの場面を見せていただけるとは、と驚きつつも喜ばせていただいたところであります
(夜陰に乗じて藤太の宿を襲撃する兵たちのシーンなど、絵として面白いカットもあるのも楽しい)


 そして長い物語も終わり、ようやく舞台は20年後の「いま」に移ることとなります。
 この巻ではほとんど完全に聞き役に終始していた晴明と博雅の出番もいよいよこれから…

 ということは、一連の奇怪な事件もこれからが本番ということ。これまではいわば長い長い序章、ここからの物語で何が描かれることとなるのか…この巻の出来を見るに、この先も安心して待ってよさそうであります。


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