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2014.09.05

『石燕妖怪戯画 妖怪絵師と夢追う侍』 曖昧なる妖怪を求める青春ミステリ

 父と衝突して家を飛び出した青年・石川硯は、入った飯屋で妖怪談に異常に興味を持つ同年代の若者・佐野豊房(後の鳥山石燕)と出会う。豊房に引きずられ、三味線が勝手に歩き出し姿を消したという寺に忍び込む羽目となった硯は、そこで成り行きから事件の真相を推理することになるのだが…

 先日もこのブログで述べたように、いま妖怪時代小説の世界では、妖怪絵師として知られる鳥山石燕がプチブーム。今年になってから、石燕を主人公(物語の中心)とする作品(シリーズ)が3つも出たのですから、これは注目すべき現象ではありますまいか。
 さて、その3つ目の作品が本作――これがデビュー作となる作者による、なかなかにユニークな時代ミステリであります。

 作品によって様々な時期の、様々な姿で描かれる石燕ですが、本作で描かれるのは、まだ石燕と名乗る前、本名の佐野豊房を名乗っていた時代の姿。世間の常識にはからっきし疎く、怪談の類を聞くと、そこから本物の妖怪に会うことができるのではないかと大喜びし、不法侵入も辞さないという、何とも困った妖怪馬鹿であります。

 そんな豊房とコンビを組むことになるのは、彼よりわずかに年下の青年・石川硯。御家人である父は書道家として知られ、自分も書を能くしながらも、しかしそれにあきたらず、書ではなく書物を書きたいと夢見る青年です。
 しかし夢は多くとも硯はあくまでもごく一般的な常識人。そんな彼が、特殊な非常識人の豊房に引きずられ(時に豊房のストッパーになり)つつ、豊房が嗅ぎ付けた妖怪絡みの事件の謎を解く羽目になる…というのが、本作の基本スタイルであります。


 妖怪(時代)小説と一口にいってもそのアプローチは様々、最近は妖怪たちと人間が共存しながらの騒動を描くものが主流ですが、人間が妖怪を退治するものももちろんありますし、逆に妖怪はほとんど登場せず、あくまでも一種の象徴的に扱われる作品もあります。
 本作がそのうちどのパターンに属するかは、未読の方の興を削いではいけませんのでここでは伏せます。
 しかし、後に石燕が題材とする妖怪たち――沙弥長老、鉦五郎、骨女にまつわる事件に挑むという趣向自体はある意味お約束でありつつも、対照的なキャラの豊房と硯がコンビを組んで賑やかに事件を解決していく様は文句なく楽しい、とは言っても良いでしょう。
 冒頭に述べたとおり、本作はこれがデビュー作の新人ですが、とてもそうとは思えないほど、こなれた筆運びの作品であります。


 そして本作の最大の魅力は、妖怪ものとしての面白さやキャラの楽しさ、ミステリとしての趣向だけではなく、妖怪を通じた青春小説、成長小説としての側面でしょう。

 世の中の常識に縛られない妖怪馬鹿の豊房、それとは正反対に四角四面に生きる生真面目な硯…それぞれに自分のスタイルを持ち、その道を真っ直ぐに行くように見える二人ですが、しかしその実、二人の中には、青年らしい悩みと迷いが溢れています。

 自分らしさとは何なのか、世間とは、常識とは何なのか。自分は今何ができて、この先どう生きていくのか…
 確たるものが見つけられず、曖昧なものに流されるように生きていく自分自身への疑問。それは青春時代には誰もが――おそらくは江戸時代も現代も変わりなく――経験する悩みでしょう。

 そして本作においては、「曖昧なもの」の象徴こそが、妖怪なのであります。
 妖怪を目撃して絵に表そうとすること、妖怪話に潜む真実を暴こうとすること――一見相反するそれぞれの行為は、等しく自分自身を確たるものとして見いだそうとする、青春のあがきなのです。

 その辺りの青さが――特に作者が自分自身を投影していると思しき硯の姿が――気になる向きもあるかとは思いますが、私はそんな味わいが嫌いではありませんし、妖怪小説として見事なアプローチと感じます。


 …が、どうにもいただけないのは、作中の考証がどうにも甘く、語法などに誤りが目立つ点であります。
 いちいちここでその箇所を挙げることはしませんが、個人的にはその辺りはあまり気にしない私でも気になってしまうほど、本作にはミスが散見されます。

 他の部分では相当調べて書いているのがわかるだけに、あるいは私が知らないだけかもしれませんが、少なくともより一般的で誤解を招きにくい言葉があるのであれば、そちらを採るべきではありますまいか。
 気になる部分が基本的に全く本質的ではない箇所ばかりのため、なおさら勿体なく感じたところです。


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コメント

石燕を主人公とする作品がそんなにあるなら、せめて関連作品としてリンクしてくださっても……と思うのですが、「甘えるなッ、伝奇の道は険しいのじゃ」という叱咤でございますね

投稿: 株式会社フィクション | 2014.09.06 13:19

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