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2014.09.16

『魂追い』 死と自分自身を繋ぐもの

 『生き屏風』で初お目見えした、村外れに住む妖鬼・皐月を中心とした不思議な物語を描くシリーズ第2作がKindle化されました。タイトルの『魂追い』とは、さまよう魂魄を捕らえて売る生業のこと。本作では、皐月がこの魂追いの少年・縁と出会ったことで、思わぬ旅に出ることとなります。

 とある村外れに愛馬の「布団」とともに暮らし、近づいてくる悪いモノから村を守る皐月。額の小さな角と人と異なる目の色を除けば、少女のような外見でありつつも、彼女は人を遙かに越える歳月を生きる妖鬼であります。
 といっても恐ろしい存在ではなく、彼女は時には人にいいように利用されてしまったりするお人好しで呑気な性格。しかしそれを気にすることなく、どこまでもマイペースに暮らしているのです。

 前作では、そんな彼女を狂言回しに、彼女の周囲で起こる様々な事件や出会いが連作短編的スタイルで描かれましたが、本作はそれとやや趣を変え、連作的ではあるものの、一つの長い物語が描かれることとなります。

 さて、本作で主人公的役割を務めるのは、冒頭で触れた「魂追い」の少年・縁。おじぃと二人旅の途中に皐月と出会った彼は、術を習うために彼女に弟子入りするのですが――

 ある事件で魂魄が漂う「道」に入り込んでしまったことが原因か、変調を来してしまった皐月。このままでは愛馬・布団と暮らすこともできないと、師匠の猫先生の助言を受け、皐月は縁を連れ、彼女の体を治す手段があるという「火の山」へと旅立つことになります。

 かくて旅立った二人が各地で出会った様々な人々や事件を描く本作は「魂魄の道」「鬼遣いの子」「落ち星」「火の山のねねこ」の四章構成。
 そしてその中で描かれるのは、前作同様、まるで絵本の中のようなカラフルで美しい不思議の世界なのですが――しかしどこか呑気で穏やかだった前作とは異なる部分が、本作にはあります。

 それは全編に漂う濃厚な「死」の香り――
 自らが死したもの、死を見つめ続けるもの、死を他者にばらまくもの…本作の登場人物の多くは、「死」と密接に関わる存在であり、そして当然の如く、展開する物語もまたそれと無縁ではありません。

 そもそも、縁の生業であり、本作のタイトルである「魂追い」からして、死してさまよう魂魄を捕らえ、時には自らそれを喰らう存在なのですから…


 その一方で描かれるのは、「自分が自分であること」、アイデンティティの問題であります。
 自分自身とは何か、自分が自分であることとはなにか――旅の中で出会う事件の中で、縁は、そして他の登場人物たちも、態度の差こそあれ、その問題と直面していくのです。

 そして、死とアイデンティティと――一見関係ないように見える両者を繋ぐもの、それこそが「魂」であります。
 それを失えば生命もまた失われるもの、そして誰もがただ一つだけ持つ存在の核…それこそが「魂」であり、本作は、その存在を巡る物語とも言うことができるのではありますまいか。


 その魂を巡る物語は、本作の結末において一つの結末を迎えます。
 しかしそれはあくまでも一時のもの。皐月の生がそうであるように、物語はまだまだ続いていきます。

 その先の物語――シリーズ第3作『皐月鬼』も近いうちに取り上げましょう。


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