『豪の剣 闘の剣 時代劇傑作選』(その一) 『夢想の剣』『春雪の門』
最近作品を取り上げていないのにこういうことを申し上げるのも恐縮ですが、高瀬理恵の作品は、時代ものとしての確かさと、細やかな情感、そしてアクションのキレを兼ね備えた名品揃いで私も大好きな時代漫画家。そんな作者の短編2編と『首斬り門人帳』完全版を収録した廉価版コミックであります。
本書に収録された全10編は、いずれも小学館のビッグコミック系で掲載された作品となっています。
巻頭の、そして表紙を飾る『夢想の剣』は、時代ものファンにもお馴染みの抜刀術の祖である剣豪・林崎甚助を主人公とした、これまで単行本に収録されていない作品。
彼が幼い頃に坂上主膳なる男に父を討たれ、仇討ちのための修行を続ける中、林崎明神にて一夜の夢の中で奥義を授けられて抜刀術に開眼、見事仇を討って林崎夢想流を開いた――
というエピソードは、これまでも様々なフィクションの中で題材とされてきたものですが、本作はその内容をきっちりと押さえて颯爽たる甚助の若武者ぶりを描きつつも、そこに潜むある鬱屈を描き出しているのが見事な作品。
仇を討った直後の甚助の想いに忠実な、しかし角度を変えれば裏腹とも感じられる彼の後半生を物語るナレーションが印象に残ります。
2編目の『春雪の門』は、古川薫の短編をベースとした、本作唯一の原作ものであり、やはり単行本未収録作品。原作者のの得意とする長州藩…の支藩である長府藩を舞台とした、哀切かつ不思議な美しさを持つ一編であります。
文政年間、猟官運動を繰り返す藩主・毛利元義の近臣として力を振るう佐野甚左衛門。猟官運動のための資金集めという汚れ役を追わされた甚左衛門に対し、藩の改革派から刺客が送られるのですが、それに対する甚左衛門の胸中は…
という物語自体はさまで珍しくないように感じられますが、本作の魅力と独自性は、それを甚左衛門の次女・千秋の視点から描いたことでしょう。
相思相愛の相手と縁談が進んでおりながらも、その相手がまさに刺客となった千秋。いずれも美貌ながらも小太刀の遣い手である千秋とその姉妹は、父の覚悟を知り、三人で刺客を迎え撃つのですが…
すぐ上で述べたように、武士道残酷物語的なシチュエーション自体は珍しくはないものではあります。
しかしそこにヒロインの――それも単に悲運に泣くだけでなく、己の任務の理不尽を知りながらもそれに逆らわない(自分を連れて逃げようともしない)婚約者への怒りと意地から刀を取る千秋の姿を通して描き出すことにより、さらにもう一つの人間味が加わるのが素晴らしい。
そしてそんな千秋の複雑な想いを、決して極端ではなく、しかし印象的に描き出すのは――こういうものの見方は本来好きではないのですが――やはり女性ならではの筆でありましょう。
声高に武士の世界を愚かさを訴えるのではなく、元義が作ったという清元節「梅の春」に乗せて描かれる幕切れが沁みます。
一回ですべて紹介してしまうつもりが、ついつい長くなってしまいました。『首斬り門人帳』については、次回紹介いたしましょう。
『豪の剣 闘の剣 時代劇傑作選』(高瀬理恵 リイド社SPコミックスSPポケットワイド) Amazon

| 固定リンク

コメント
『首斬り門人帳』第6話/刀守りには「公家侍秘録」とのコラボが・・・しかし、あの○○さんが・・・旦那になる人大丈夫かと心配してしまいますwww
投稿: ジャラル | 2014.09.03 23:17