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2014.09.19

『なりゆき斎王の入内 この婚姻、陰謀なりけり』 神話の中に浮かぶ親と子の姿

 ほとんど顔も知らない父の命で伊勢の斎王にさせられた塔子は、父と姉が呪詛事件を起こした上に疫病で亡くなったため、斎王の任を解かれ、怨霊を鎮めのために東宮に入内することとなる。顔も見せない東宮に反発しながらも、呪詛事件に不審を抱いた塔子は、検非違使少尉の平暁とともに真相を探るが…

 少女小説のジャンルでは、ちょっと驚くくらいに平安ものが多く、それだけに思わぬユニークな作品があるのですが、本作もその一つと言えるでしょうか。
 周囲の状況に振り回されて斎王に、そして東宮(皇太子)のもとに入内する羽目になった元気印の女の子を主人公とした作品であります。

 主人公・塔子は、血筋こそ先帝の孫であるものの、親王である父には一切顧みられず、母の実家である熊野でのびのびと育った少女。
 しかし会ったこともない父に突然伊勢の斎王にさせられたと思ったら、その父と帝の女御であった姉が呪詛事件を起こしたという疑惑が。さらに二人がその直後に疫病で亡くなり、塔子はその怨霊を鎮めるため、東宮へと入内させられることになってしまいます。

 かくてなりゆきのままに振り回される彼女は、何とか東宮に嫌われて追い出されようと企むのですが…
 しかし当の東宮は彼女の前に全く顔を見せず、さらに父の政敵の子である近衛大将が親切顔で接近してくることに。そして、姉の子である五の宮の肉親の死に悲しみを見せようともしない態度に不審を感じた塔子は、果たして呪詛事件は真実なのか、探索を始めるのですが…


 平安もの少女小説の主人公にしばしば見られるように、本作の主人公・塔子は、姫宮としては破格の存在。御簾なしで男性と言葉も交わせば、馬にも乗る、そんな活動的な(?)ヒロインであります。
 そんな彼女が、献身的で心優しい検非違使の青年、優美ながら腹に一物ありげな近衛大将、子供の頃から憧れてきた熊野の宮司を務める叔父と、数々のイケメンに囲まれながら冒険を繰り広げるというのも、定番のパターンでありましょう。

 しかしそんな中で本作のユニークなのは、塔子が古代史・神話オタクであり、自分を含めた周囲の人物関係を、神話、なかんずく古事記の神々のそれに当てはめて考える点でしょう。
 この辺り、微笑ましくも少々イタイタしいものを感じてしまうのですが、しかしそんな彼女の態度の根底にあるのが、顔も見たこともない父や姉への複雑な感情であることが印象に残ります。

 なるほど、神話の世界においては、親と子の関係が、程度の差はあれ、特異に、奇異に感じられる場合があります。
 その身を疎まれて生まれてすぐに流されたヒルコとアワシマ。生まれ落ちる際に母を殺し、父に殺されたカグツチ。母を恋い慕って泣き騒ぎ追放されたスサノオ――
 そんな神々の子らの姿を自らの親子関係やなりゆきに翻弄される自分の運命になぞらえる塔子の姿は、彼女が破格でありつつもあくまでも年頃の少女であることを考えると、胸に迫るものがあります。

 そしてまた、そんな彼女の目が、呪詛事件の意外な真犯人を見出すという展開も、納得であります。


 先に述べた通り、パターンといえばパターンではあります(特に姿なき東宮の正体は、誰もがすぐに気付くのではありますまいか)。
 個人的には、期待していた伝奇的要素が全くなかったのも残念ではあります(これは勝手に期待した私が100%悪いのですが)。

 しかし、東宮が姿を見せなかったその理由など、シンプルながら物語の展開に照らして納得のいくものであったり、すぐ上で述べたように呪詛事件の真犯人の意外性や塔子の人物造形など、見るべき点も少なくない作品ではあります。

 思い切り続編に引く結末ではありますが…さてどうしましょうか。


『なりゆき斎王の入内 この婚姻、陰謀なりけり』(小田菜摘 エンターブレインビーズログ文庫) Amazon
なりゆき斎王の入内 ~この婚姻、陰謀なりけり~ (ビーズログ文庫)

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