『かりそめの家』 幻の箱庭に浮かび上がる人のあるべき生
ポプラ文庫ピュアフルより、もののけ小説アンソロジー『となりのもののけさん』が刊行されました。同レーベルの作家5人による短編が収録された豪華な一冊ですが、このブログとして気になるのは、小松エメルの『一鬼夜行』シリーズのスピンオフ『かりそめの家』であります。
自称大妖怪の子鬼・小春と、妖怪もビビる閻魔顔の古道具店主・喜蔵の凸凹コンビを主人公とした『一鬼夜行』。しかし本作で主人公を務めるのは彼らではありません。
主人公は百目鬼の多聞とその仲間の妖怪・できぼし――これまで数々の妖怪沙汰を仕掛けて喜蔵と小春を悩ませてきた側が主人公となるのです。
はた迷惑にも、喜蔵たちと「遊ぶ」ために喜蔵の店・萩の屋にやってきた多聞とできぼし。しかし残念ながら(?)喜蔵は留守、そこで喜蔵と妹の深雪に化けた二人が店に入り込んだとき、一人の老人が妖怪沙汰の依頼を持ち込んできます。
老人について出かけた二人がやがて辿り着いたのは元の萩の屋ですが、しかしそこで待ち受けていたのは、いささか意外な人物。
そしてそこに現れた美しい娘・朔は、持参した箱庭にかけられた呪いを解いて欲しいというのですが…
50頁ほどと、分量としてはそれほど多くはない本作ですが、しかしその密度は本編同様の濃さ。登場人物たちのやりとりの面白さも、そんな中で描かれる現実のシビアさも…そしてその中に浮かび上がる暖かい希望の光も、本編同様であります。
短編ゆえ、なかなかこれ以上の内容の紹介は難しいところではあるのですが、本作の物語は、キーアイテムである箱庭――ある人物の強い想いが宿り、それ自体が小さな世界と化した箱庭――を軸に、様々な要素が対比して描かれることとなります。
それは現在と過去であり、現実と虚構であり、生者と死者であり、流れ続ける限りない時と繰り返される限られた時であり…しかしそこに浮き彫りとなるのは、シンプルな、しかしそれだけに重い問いかけ――「人が生きるとはどういうことなのか」であります。
そしてシリーズの読者であれば、この問いかけが、シリーズの中に脈々と流れるもの、様々な形に姿を変えつつも描かれてきたものであることをご存じでしょう。
スピンオフとは言い条、本作もまた、見事に『一鬼夜行』なのであります。
上に挙げた問いかけに、本作がどのような答えを出したか…それはもちろん、ここでは記しません。
しかし結末で描かれるヒロインの想いが、行動が、何よりもそれを雄弁に語っている、とだけは申し上げてもよいでしょう。
本シリーズは、11月に発売される第6作において、いよいよ第一部のクライマックスを迎えるとのこと。
そこに何が待つか…それはもちろんまだわかりませんが、本作を読めば、きっとこちらの期待が裏切られることはないだろうと、そう感じられるのです。
と、当ブログの性格上、本作のみの紹介となってしまい恐縮ですが、冒頭に述べたように、『となりのもののけさん』に収録されたのは、このレーベルの人気作家の作品ばかりが集められています。
そしてまたそれは、現在黄金時代を迎えている妖怪小説の最先端が集められていることとイコールであり、同好の士にお勧めしたい一冊であります。
そして表紙から各作品の挿絵まで、本書を貫くものとして存在する、さやかのイラストにも、ご注目いただきたいところです。
『かりそめの家』(小松エメル ポプラ文庫ピュアフル『となりのもののけさん』所収) Amazon
![(P[ん]1-18)となりのもののけさん (ポプラ文庫ピュアフル)](http://ecx.images-amazon.com/images/I/513K0tiGrXL._SL160_.jpg)
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