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2014.09.17

『機巧のイヴ』(その一) 人と人の姿をしたモノの物語

 人間そっくりの機巧人形を作ることができるという幕府精錬方手伝・釘宮久蔵。彼のもとを訪れた仁左衛門は、馴染みの遊女を自由の身にしつつ、自分の手元に置くため、久蔵にその複製を依頼する。果たして彼女と瓜二つの機巧人形を手にした仁左衛門だが、やがてある疑惑が…(『機巧のイヴ』)

 これまでジャンルを越えたアイディアを投入した時代小説でこちらを驚かせ続けてきた乾緑郎が、これまたとてつもないアイディアで作り上げた、連作短編集であります。
 表題作である第1話のタイトルの元となっているのがリラダン『未来のイヴ』であることから察せられるように、本作で描かれるのは人造人間――それも美しき女性のそれであります。

 天府城に住まう将軍によって治められる、我々の世界の江戸時代とよく似た時代――その世界において、人間に、生物に瓜二つの機巧人形を作り出すことができるという怪老人・釘宮久蔵と、彼と共に暮らす謎めいた、しかしどこか無邪気な美女・伊武(いう゛)の二人を中心に、機巧人形を巡る五つの奇怪な物語が綴られていきます。

 心の中に別の男の面影を抱く女郎を救い、同時に自分のものとしようと人形製作を久蔵に依頼した男が知った真実『機巧のイヴ』
 城下町に聳える十三層の巨大楼閣を有する遊郭で生まれた心優しき相撲取りを翻弄する数奇な運命を描く『箱の中のヘラクレス』
 久蔵の秘密を探ろうと伊武に接近した公儀隠密・甚内が知った、天帝家と「神代の神器」を巡る恐るべき秘密『神代のテセウス』
 天帝の秘密を知る少女を追う甚内が巻き込まれた幕府と宮中の暗闘の果てに浮かび上がる驚くべき真実『制外のジェペット』
 天帝陵から発掘された「神代の神器」に込められた秘密と、久蔵の、伊武の秘められた過去が交錯し最後の戦いが繰り広げられる『終天のプシュケー』

 変格の人情もの的味わいのあった冒頭2話を経て、第3話以降は一気に物語はスケールアップ。久蔵と伊武を巡る過去の因縁と、幕府と宮中の暗闘が入り乱れる中、人と人の姿をしたモノの物語が展開していくこととなります。
(物体の同一性を問うパラドックスに名を冠される英雄、おそらくは丸太から命を持つ人形を作り出した老人、人間の魂を意味する名前を持つ美女…と、特に第3話以降のタイトルが実に意味深で面白い)


 しかし…(次回に続きます)


『機巧のイヴ』(乾緑郎 新潮社) Amazon
機巧のイヴ

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