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2014.09.04

『豪の剣 闘の剣 時代劇傑作選』(その二) 『首斬り門人帳』完全版

 廉価版コミックとして発売された高瀬理恵の作品集『豪の剣 闘の剣』の紹介の続きであります。今回ご紹介するのは、全8話の連作シリーズ『首斬り門人帳』。表紙に「完全版」と銘打ってあるとおり、これまでの単行本には全話が一度に収録されていなかったものが、今回一冊にまとまっています。

 さて、「首斬り」とはなんとも物騒に感じられますが、それは本作の主人公・神崎又平の師匠が、代々幕府の御様御用(刀剣の試し斬り役)を務め、そして何よりも町奉行所の依頼で斬首役を務めたことから首斬り浅右衛門と異名を取った、山田浅右衛門であることによります。
 山田浅右衛門の史実については、本書に収録された作者自身の文章で詳しく解説されているのでここでは触れませんが、江戸時代前期から明治時代まで代々名前が受け継がれた中で、本作に登場するのは、江戸時代後期の六代目吉昌となります。

 シリーズ第1話となる「正邪の剣」で描かれるのは、この師弟の出会いであります。
 旗本の次男坊に生まれながらも、得意の刀剣目利きで小遣いを稼ぎ、賭場に入り浸る毎日の又平。ある日、無銘ながらも優れた刀を見つけた又平は、刀を巡って賭場の用心棒と諍いになり、窮地に陥ったところを浅右衛門に救われることになります。
 この事件で浅右衛門に心服した又平は、首斬り浅右衛門の門人となり――そして彼の経験する事件の数々を描くのが、本作『首斬り門人帳』なのであります。

 そんな本作は、しかし意外なほど斬首にまつわるエピソードは少なく、浅右衛門の本業であるむしろ刀剣目利きにまつわるものの方が多い印象もあります。
 しかし本作の場合、それが良い具合に物語にバリエーションをつけ、そして爽やかな読後感を与えるものが多いと感じられます。

 直情径行でまだまだ青い又平の奮闘を、既に完成された人格の浅右衛門が暖かくも厳しく見守るという図式が面白く、いささか物騒なタイトルとは裏腹に、むしろ人情味豊かな活劇が一話完結で展開されていくのが、実に良いのです。
 ちなみに第6話の「刀守り」は、後に作者の『公家侍秘録』で活躍する刀守り・天野守武の初登場する作品であり、その意味でもファンには必見の作品であります。


 さて、冒頭でも触れましたが、本作は「完全版」と銘打たれた内容。というのも、本作はこれまで二度単行本化されているものの、実はそれぞれで微妙に収録作品が異なっているのであります。

 本書に収録されたのは「正邪の剣」「男の顔」「首斬り無用」「助太刀無用」「折紙無用」「刀守り」「竹光侍」「冥府からの刺客」の全8話。
 このうち、旧版の単行本には「冥府からの刺客」が収録されておらず、新装版には「首斬り無用」「助太刀無用」が収録されていないという状況だったのが、今回ようやく全編が一箇所に収録されたことになります。

 私が持っているのは新装版の単行本だったのですが、おかげで読み逃していた2話のうち、特に「助太刀無用」は、又平を振り回す敵討ちの侍のすっとぼけたキャラと意外な結末が実に面白く、今回読めたことを感謝したいところです。


 単行本未収録作品と完全版と――廉価版コミックとはいえ決して油断できない、ファン必見の一冊であります。


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