« 『おそろし 三島屋変調百物語』 最終夜「家鳴り」 | トップページ | 『およもん 妖怪大決闘の巻』 妖怪&剣豪、大決闘×2 »

2014.09.29

『すえずえ』 若だんなと妖怪たちの行く末に

 これまでほぼ年一作のペースで刊行されてきた『しゃばけ』シリーズも、この『すえずえ』で第13作目。「すえずえ」とは「末末」――「時間的にあとであること。これから先。将来。行く末。のちのち。」の意。作中の登場人物それぞれのすえずえが、本作においては描かれることとなります。

 シリーズ第一作が刊行されてから、早13年が経った『しゃばけ』シリーズですが、しかし作中における時の流れは、現実世界に比べれば――特に若だんなの周囲では――かなり緩やかであったという印象があります。
 もちろん、若だんなの腹違いの兄である松之助や親友の栄吉は、作中でそれぞれの道を歩み始めているのですが、若だんなはと言えば、大げさに言えば、相変わらず長崎屋の離れで妖怪たちと楽しく暮らす毎日。

 もちろんそれはそれで大いに結構なことで、その変化のなさこそが、いつまでも続く本シリーズの楽しさを保証してくれているのですが――しかし、本作においては、そんな若だんなにとっても、時の流れは少しずつ、少しずつ動いていることが感じられるのです。

 さて、これまで同様に連作短編集である本作は、登場人物の名と時間の単位を組み合わせたタイトルの、5つの短編から構成されています。
 見合いをしたにもかかわらず、そのことを若だんなに隠そうとする栄吉の抱えた複雑な事情「栄吉の来年」
 寺で二人の僧が姿を消したという事件を解決しに小田原に向かった寛朝を待ち受ける思わぬ事態「寛朝の明日」
主人の藤兵衛が上方に出かけたきり帰ってこないところに勃発した店乗っ取り騒動に一人挑むおたえの姿を描く「おたえの、とこしえ」

 …と、それぞれに趣向を凝らしたユニークな事件が描かれ、大いに楽しいのですが、しかし次の作品のインパクトの前には、いささか霞むかもしれません。
 何しろ「仁吉と佐助の千年」で描かれるのは、若だんな自身の縁談――あの若だんなに、ついにお嫁さんが!? という展開なのであります。

 もちろん、若だんなもそれなりの年齢。縁談の一つや二つがあっても不思議ではない…と言いたいところですが、ご存じのとおり若だんなは極め付きの病弱。
 いや、それは良いとしても、彼の周囲には仁吉と佐助をはじめとして、数多くの妖怪たちがおります。

 普通の人間が、基本的に目に見えない妖怪たちとうまくいくはずがない。妖怪たちも、自分たちのことを理解しない人間とうまくいくはずがない。
 そんな状況で持ち込まれた縁談は、もちろん騒動のタネにしかならないわけで…

 と、抱腹絶倒の大騒ぎとなるわけですが、しかしここで同時に描かれるのは、時の流れによる、若だんなと妖怪たちの関係性の変化であります。
 繰り返しになりますが、若だんなに嫁が来た時に、普通の人間と妖怪たちとが仲良くできる可能性は、極めて低いと言えるでしょう。 しかし若だんながこの先あくまでも人間として、長崎屋の(将来の)主として暮らすのであれば――そうでない選択肢もあるのがまた恐ろしくもありますが――嫁取りはやはり避けては通れない道でしょう。

 だとすれば、退くのはやはり妖怪たちの方…と実際なるかどうかは別として、この「仁吉と佐助の千年」、そして続く「妖達の来月」で描かれるのは、止まらない時の流れによる、いつかあるかもしれない別れの姿なのであります。
(尤も、「YomYom」誌Vol.25に掲載されたシリーズ外伝「えどさがし」には、明治時代の妖怪たちの姿が描かれているのですが…)


 若だんなも、そして我々読者も、変わらぬまま続くと信じていた『しゃばけ』シリーズの楽しい世界。しかしその世界も、決して時間の流れとは無縁ではいられないことが、本作では描かれます。
 しかしもちろん、その変化が今日明日訪れるわけでもなく、そしてそれがネガティブなものであるとも限りません。

 いつか訪れるその日が、更なる笑顔をもたらしてくれることを、今は信じたいと思います。


『すえずえ』(畠中恵 新潮社) Amazon
すえずえ


関連記事
 しゃばけ
 「ぬしさまへ」 妖の在りようと人の在りようの狭間で
 「みぃつけた」 愉しく、心和む一冊
 「ねこのばば」 間口が広くて奥も深い、理想的世界
 「おまけのこ」 しゃばけというジャンル
 「うそうそ」 いつまでも訪ね求める道程
 「ちんぷんかん」 生々流転、変化の兆し
 「いっちばん」 変わらぬ世界と変わりゆく世界の間で
 「ころころろ」(その一) 若だんなの光を追いかけて
 「ころころろ」(その二) もう取り戻せない想いを追いかけて
 「ゆんでめて」 消える過去、残る未来
 「やなりいなり」 時々苦い現実の味
 「ひなこまち」 若だんなと五つの人助け
 「たぶんねこ」 若だんなと五つの約束

 「しゃばけ読本」 シリーズそのまま、楽しい一冊

|

« 『おそろし 三島屋変調百物語』 最終夜「家鳴り」 | トップページ | 『およもん 妖怪大決闘の巻』 妖怪&剣豪、大決闘×2 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/60389833

この記事へのトラックバック一覧です: 『すえずえ』 若だんなと妖怪たちの行く末に:

» しゃばけシリーズ 「すえずえ」 畠中恵 [日々の書付]
しゃばけシリーズ第14弾「すえずえ」を読みました。本の帯に「若だんなのお嫁さん決定!」の文字があり、こりゃ、図書館の順番待ちしてる場合じゃないと、この本だけは買ってきて読んでみました。 今回のテーマは「未来、将来」でしょうか。若だんな、友人の栄吉、佐助と仁吉兄や、そして妖怪たち。このままの暮らしがずっと続くと思われてきましたが、みな少しずつ、先のことを考える時期にきているようです。 すえずえposted with amazlet at 14.08.01畠中 恵 新潮社 売り上げランキング... [続きを読む]

受信: 2014.09.30 13:49

« 『おそろし 三島屋変調百物語』 最終夜「家鳴り」 | トップページ | 『およもん 妖怪大決闘の巻』 妖怪&剣豪、大決闘×2 »