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2014.09.27

『明治の怪談実話 ヴィンテージ・コレクション』 これで一周、充実のレア怪談集

 一昨年から年一冊ずつ『昭和』『大正』と刊行されてきた『怪談実話 ヴィンテージ・コレクション』、さて次は…と思っていたところが、今年も『明治の怪談実話ヴィンテージ・コレクション』が刊行されました。おそらくは三部作になるべき怪談集のラストであります。

 この『怪談実話 ヴィンテージ・コレクション』は、現代では完全に埋もれてしまっている怪談実話集を発掘し、その中でもユニークな作品、意義深い作品を収録した怪談集です。

 大衆文化の中でもある意味特に偏ったところに位置する怪談ですが、それだけに、現代まで残っているものはよほど有名なものくらいというのが現状。それを発掘して手に入れやすい形で刊行してくれるというのは、実話怪談好きにとってはまことに頭の下がるお話しであります。

 さて、本書の対象となる明治といえば、特にその前半の時期は、近代合理精神とやらに押されて、非合理の塊とも言うべき実話怪談は風前の灯火だった時代。
 それが時代が移るにつれ、好事家たちの逆襲(?)が始まり、一種の怪談会ブームにまで至った…というのは、本書と同じ東雅夫編による『百物語怪談会 文豪怪談傑作選特別編』に詳しいところであります。

 しかし、いかにブームといえど、現代の読者に通用するものがそれほどあるのか――上記の『百物語怪談会』に収録された「怪談会」「怪談百物語」がせいぜいではないのかしら――などというのは、これはあまりに無知というものでした。
 それだけ、本書に収録された怪談の数々は魅力的なのであります。


 なんと言っても圧倒されるのは、本書のほぼ半分を占める『古今実説 幽霊一百題』。これが実に、タイトルに偽りないほぼ完全な百物語、すなわり百話の怪談が収録されているのです(本書では事情により一話欠けておりますが…)。

 怪談集のタイトルに「○○百物語」というのはある意味定番ではありますが、本当に百話収録されているものは(特に『新耳袋』以前は)さして多くなかったという印象があります。
 しかしこの『幽霊一百題』は、本当に百話、それもタイトルのとおり幽霊話ばかりを収録しているのですから驚かされます。

 さすがに内容的には、幽霊話の定番とも言える死者が別れを告げに来る話や痴情のもつれによる女幽霊ネタが多いのですが、その中に、監獄の教晦師(これも近代以降の産物ではありましょう)が語るものや、戊辰戦争あるいは西南戦争にまつわるものが含まれているのが、これはこの怪談集ならでは。
 何よりも本当に百話収録のもたらす迫力というものは、当時の怪談シーンの熱量を想像させるものがあり、何とも圧倒されます。
(そしてこの怪談集が、仏教系の出版社によって出版されたというのが、また時代背景というものを想像させるのです)


 その他、本書に収録されている怪談集はどれも総じてレベルが高く、正直に申し上げてこれまでの『昭和』『大正』が、どちらかといえば資料的価値込みでの評価になったのに比べれると、ストレートに怪談集として楽しめる内容なのが目を引きます。

 特に『日本妖怪実譚』の「土蔵の中の雪洞」や、『実歴怪談』の「障子の幻映」など、シンプルな内容ながら、語り手側と怪異側、双方の丹念な描写が実に生々しく、今読んでも出色の怪談と言えましょう。
(ただし、怪談実話といいつつ、オカルト探偵フラックスマン・ローものの翻訳が含まれているのはいかがなものかとは思いますが…)


 と、非常に充実した本書、ページ数に比べての読み応えは相当なものであり(これは途中で二段組みになっているからという理由もあるかとは思いますが)、並みの怪談集数冊分の読み応えがあった本書。

 これで明治・大正・昭和と一巡りしたわけですが、ぜひ二巡目を…というのはさすがに贅沢の言いすぎかもしれませんが、偽らざる心境であります。


『明治の怪談実話ヴィンテージ・コレクション』(東雅夫編 KADOKAWA/メディアファクトリー幽ブックス) Amazon
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