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2014.10.25

『大江戸恐龍伝』第5巻 二匹の大怪獣の最期

 平賀源内が恐龍生存の謎に挑む『大江戸恐龍伝』もいよいよこの第5巻で完結。秘境ニルヤカナヤでの命がけの冒険を経て、恐竜を連れて江戸に帰ってきた源内は、富と名声を手に入れたかに見えたのですが、そこには思わぬ敵の罠が……結末を前に、大きなどんでん返しが待ちかまえているのであります。

 数々の謎を解き明かし、ついにニルヤカナヤにたどり着いた源内と仲間たち。そこで待ち受けていたのは、太古から生き延びてきた恐龍たちと、今は二つに分かれて争うかつて徐福とともに大陸から渡ってきた民の末裔でありました。
 その争いに巻き込まれて幾度となく命の危険に晒されながらも、源内一行は巨大な恐竜と、龍遣いの娘らとともに無事に江戸に帰り着いたのでありました……というのが前巻のあらすじであります。

 さて、この恐竜を両国で見世物に出しての興業は大成功し、かつての主君や、将軍までもが見に来ようという大評判。この成功を元に、長年の夢である鉱山開発を再開させて……と源内のこれまでの苦労も報われてハッピーエンド――にあっさりなるわけがありません。

 そう、物語冒頭から暗躍してきた凶盗・火鼠一味が、再び源内の前に姿を現すのであります。

 これまで不思議と源内の行く先々に現れてきた謎の火鼠一味。あたかも龍の謎を追いかけるように暗躍してきた彼らも、さすがにニルヤカナヤでは出番はなかったのですが……よりによって、と言わんばかりの場面で再登場、事態は源内にとって、江戸の町にとって最悪の展開に――そう、恐龍が解き放たれることとなってしまうのであります。


 これはいささかひねくれた視点で恐縮ですが、やはり怪獣ものであれば、人外境だけではなく、大都会で思う存分暴れて欲しい……そういう気持ちは読者としてありました。
 そして言うまでもなく当時の江戸は日本有数の大都会。怪獣の暴れるには全く不足のない舞台であります。

 ……が、それはもちろん無責任極まりない野次馬の意見。実際に恐龍に襲われる人々にとっては、そして直接の責任はないにせよ恐龍を連れてきた源内にとっては、まさに生きるか死ぬかの瀬戸際であります。
 かくて、源内が、幕府が総力を挙げた恐龍迎撃作戦が繰り広げられるのですが――

 その中で浮き彫りとなるのは、前巻でも描かれたことではありますが、源内の恐龍に対する共感とでもいうべき感情であります。
 群を抜いた力を持ちながらも、現れるべき時代が違いすぎた故に世に受け入れられず、鬱屈を抱えたまま生きる……
 物語冒頭から描かれてきたそんな源内の姿は、(作中の)現代まで生き残り、無理矢理江戸に連れてこられて檻の中に閉じこめられた恐龍の姿に重なるのです。

 とすれば源内と恐龍は、ある意味双子とも言うべき存在。源内が、その力を思う存分に振るう恐龍の姿に感動を覚え、そして人から追われるしかない恐龍の姿に悲しみと痛みを感じるのは、もちろんそこに己自身の姿を見ていたからにほかなりません。

 江戸時代を舞台に怪獣ものを再現する。となれば、怪獣ものにつきものの博士役に当代きっての才人たる源内を配置するのは、ある意味当然かもしれません。
 しかし本作においてはそれに留まらず、自らも等しく怪獣である源内の想いを描き出すことで、ストレートなオマージュからさらに一歩踏み込んだ物語を生み出してみせたと言えるでしょう。
(そしてもちろん、一大伝奇時代小説としての完成度は言うに及ばず)


 ……源内がどのような最期を遂げたか、それは歴史によく知られるとおりであります。
 本作でも活躍する杉田玄白が源内の死を嘆じた「ああ非常の人 非常のことを好み 行ひ是れ非常 何ぞ非常の死なる」という語は、本作の最終章のタイトルともなっているのですが――さて、「怪獣」源内の最期を、本作がどのように描いてみせたか?

 それはもちろんここで詳細には述べませんが、あたかも美しい夢のような結末は、二匹の大怪獣の姿を描いた本作を受け止めるにふさわしいものであったと感じるところであります。


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大江戸恐龍伝 第五巻


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