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2014.10.29

『会津の怪談』 歴史小説家の視点による時代怪異譚は

 直木賞作家・中村彰彦がこれまでに発表した怪談・奇談ばかりを集めた短編集であります。作者が得意とする題材である会津を舞台とした作品が多いことは本書のタイトルからもわかるとおりですが、会津に留まらず、各地の城下町を舞台とした武家怪談集とでも言うべき内容のユニークな一冊です。

 中村彰彦といえば、直木賞、中山義秀文学賞、新田次郎文学賞と、錚々たる賞を受賞してきた歴史小説家。正直に申し上げればいささか、いやかなり堅いイメージのある作者が、いかなる縁でこのような怪談集を出版することになったか、それはわかりませんが、興味深い作品集であることは間違いありません。

 さて、本書に収録されているのは、全部で7編の怪談奇談。
 江戸時代初期に会津を騒がせ、様々な作品の題材となった堀主水の脱藩騒動の陰に怨霊の存在を描く『亡霊お花』
 金沢城のお厠に出没し、前田家の子女を震え上がらせた怨霊・かわ姥にまつわる因縁話『かわ姥物語』
 名古屋城御土居下を舞台に、美しい姉妹と一本のかんざしが織りなす美しくも妖しく哀しい怪異譚『思い出かんざし』
 加藤清正に仕えた豪傑・貴田孫兵衛(毛谷村六助)と朝鮮出兵にまつわるある巷説を題材とした奇談『晋州城の義妓』
 保科正之が山形に封じられた頃、城下に出没した骸骨のような侍と、その意外な正体を描いた『骸骨侍』
 未曾有の大災害となった振袖火事を背景に、将軍家を支え、江戸の混乱を未然に防いだ保科正之の姿を奇談混じりに記す『名君と振袖火事』
 そして会津加藤家の豪傑が肝試しに出かけたことから経験する思わぬ邯鄲の夢『恋の重荷 白河栄華の夢白河』
 なかなかにバラエティーに富んだ内容であります。


 ……それにしても、歴史小説と怪談は、最も縁遠いものに感じられるというのは、本書を手に取るまでの正直な印象でありました。厳然たる史実と、この世のものならぬ怪異とは、あまりに食い合わせが悪いのではないかと――
 しかし本作においては、その両者が全く違和感なく溶け合っているといって差し支えありますまい。

 なるほど歴史小説は、史実という事実の羅列から、人間の血の通った物語を描き出すもの。情念が生み出した怪異という、ある意味人間性の極みともいうべき存在を描くに、この歴史小説の手法・視点は、大きな力を持つものでありましょう。

 そんな本書の魅力が最もよく現れているのは、『骸骨侍』でありましょう。
 山形の城下町に夜な夜な出没する骸骨のような侍という濃厚な怪奇性をまとった存在の背後にあるのは、未だ天下に混乱の種が尽きなかった江戸時代前期の時代性であり、そして同時に我々の現代にも通じる人間の意外な心理。
 怪奇と史実と人間性と――この三つが複雑に絡み合った末に生まれた本作は、まさに歴史怪異譚と呼ぶにふさわしい内容でしょう。

 そしてもう一つ、他の作品とは全く別の意味の「怪談」を描いた『晋州城の義妓』――朝鮮の晋州城落城の際、日本の武将を道連れに断崖から身を投げた妓生の伝説の虚構性を容赦なく抉ったこの作品からは、また別の意味での歴史小説家としての怪異への対し方が窺えるのも興味深いところではあります。
(同じ伝説を題材とした荒山徹の『故郷忘じたく候』(『サラン』所収)と比べるとその違いがあまりにも明白で実に面白い)

 考えてみれば、純文学者の作品に怪談に属する作品が少なくないのと同様、歴史小説家による怪異譚(集)――綱淵謙錠の『怪』の如く――というのは、そのイメージと反して、決して珍しいものではないのかもしれません。
 だとすれば、本書を皮切りに、歴史怪異譚集が編まれるというのも、決して悪くない試みではないか……歴史好きとして、怪談好きとしては、そんな想像は大いにそそられるものがあります。


『会津の怪談』(中村彰彦 廣済堂出版) Amazon
会津の怪談

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