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2014.10.12

『雨柳堂夢咄』其ノ十五 百話目の雨柳堂、百話目の蓮

 大きな柳の木が目印の骨董屋・雨柳堂と、その主人の孫・蓮を狂言回しとした連作奇譚『雨柳堂夢咄』も、前巻から僅か一年半で、最新巻の其ノ十五が刊行されることとなりました。十五巻というのも切りの良い巻数ですが、この巻の収録分で、ついに本作は百話を達成することとなりました。

 この『雨柳堂夢咄』の連載開始が1991年。それから現在に至るまで、休載や雑誌そのものの休刊など色々とありましたが、実に23年目にして記念すべき百話を達成したこととなります。
 しかし、その記念すべき巻においても、良い意味で大きく変わることなく、静かに美しい世界を保っているのが、実に本作らしいところと申せましょう。

 この巻に収録されているのは全七話。
『桜森』『採蓮図』『酌めども尽きず』『福良雀』『橋姫不在』『梅雨入りの客』『神かくし』
 もちろんどのエピソードも、骨董品に込められた想いや、骨董品を仲立ちにした人々(あるいは人ならざるものたち)の交流を描き、それぞれに印象的なのは言うまでもありません。

 しかし今回は特に水準の高い作品が揃っている印象があるのですが、その中から敢えて個人的に印象に残った作品を挙げれば、『桜森』『酌めども尽きず』でしょうか。

 前者は、桜の季節に蓮の前に現れた「桜守」を名乗る不思議な少年と、雨柳堂の蔵にあった蜘蛛の姿の念がまとわりついた着物にまつわる奇譚であります。

 雨柳堂に住み着いたもののけたちも恐れる「蜘蛛」の正体は何か。そして桜守の少年が求めるものは何か――
 蜘蛛の謎解きとその解決方法もさることながら、「人の世の〝山に咲く桜〟ではない桜」を守る桜守というアイディアが実に見事だと言うほかありません。

 人ならざる者、かつて人であった者と「美」の関わり合いを描くのは本作の得意とするところですが、それを満喫できる佳品です。


 一方、後者は雨柳堂は背景に下がって、父が急死して老舗料亭を背負うこととなった少女と、彼女の婚約者候補となった酒造店の青年の、ちょっと洒落た物語。

 酒好きで、それがもとで命を落とすこととなった少女の父。そのために酒を嫌う彼女に対して優しく接する青年は、彼女の父が酒好き故に持っていた素晴らしい技の存在を教えます。
 それでも素直に慣れない彼女に悩む青年が足を踏み入れた雨柳堂で待っていたものは――なるほど、これは酒を愛する者にとっては理想の境地でありましょう。結末の甘さも心地よい作品でした。


 そしてもう一作――ラストに収められた『神かくし』こそが記念すべき百話目の物語。
 幼い頃に神隠しに遭い、以来、百合の絵ばかりを描くようになった年輩の女流画家の記憶に眠っていた、ある人物の姿とは……

 物語の中心となる女流画家の存在を通じて作中の時間の流れを描きつつ、もしかするとその流れから外れているかもしれない「彼」の存在を描く本作。
 一見普段着のようでいて、この『雨柳堂夢咄』という物語の構造をメタフィクショナルに総括したように受け取れる内容は、なるほど百話に相応しいと感じます。

 そして(幸いそうはならなかったのですが)作者が考えたように、この百話目で『雨柳堂夢咄』が完結したとしてもそれなりに納得できるような気もする……そんなちょっと恐ろしい作品でもあります。


 しかしもちろん、『雨柳堂夢咄』はまだまだ続きます。
 節目の巻数・話数も確かに大事かもしれませんが、しかし「変わらず在り続けること」の美しさ、素晴らしさ、悲しさを描く物語に、必要以上にそれを気にすることはないのかもしれません。
 そしてその終わりもまた――

 いつまでもこの美しい世界が在り続けることを、生まれ続けることを、ファンとしては心より望むものであります。


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