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2014.10.31

『雪姫もののけ伝々』 ニューヒロインは雪女!?

 浅草の骨董屋・鈴屋の美しい一人娘・雪乃は、実は雪女の血を引いていた。人ならぬ霊力を持ち、もののけたちと平和に暮らす雪乃だが、その前に奇怪な魔物が引き起こす事件が相次ぐ。幕府の目付・神矢鬼一郎やもののけたちの力を借りて事件に挑む雪乃だが、事件の背後には意外な存在が……

 毎月のように紹介している妖怪時代小説ですが、個々の作品の個性の見せ所は、その主人公の設定に依るところが大でありましょう。
 その意味では、本作は相当に個性的な作品と言えます。

 というのも本作の主人公・雪乃は雪女……の血を引いた美少女。かつて遠野で人間の男と契った雪女の血を引く彼女は、肉体こそ人間ながら(だから普通に風呂にも入れる)、人ならざる存在を感じ、言葉を交わす力、そして何よりも周囲を凍てつかせる力の持ち主なのです。

 同様の力を持つ父の営む骨董屋の一人娘として暮らす彼女ですが、彼女の周囲にいるのはもののけたち。彼女の守り神である地蔵の根付や座敷わらし、烏天狗に店の使用人である赤鬼・青鬼……そんな面々とともに、江戸で邪悪な魔物による奇怪な事件が起きた時、雪乃は立ち上がるのであります。

 なるほど、共に暮らすもののけたちの力を借りて悪いもののけと戦う主人公――というのは、妖怪時代小説の一つのパターンでありますが、このパターンで主人公が女性というのは存外珍しいのではないでしょうか。それは確かに一つのアドバンテージと言えます。

 そんな彼女につきまとうストーカーが実は魔物に取り憑かれており、しかも追い詰められて彼女の目の前で破裂してしまうというショッキングな幕開けから、奇怪な魔物と契約して生け贄を求める大商人の暗躍を縦糸に、そんな大事件とは無関係に騒動を引き起こすもののけたちと雪乃の交流を横糸に本作は展開。
 クライマックスには思わぬ強敵を相手にした妖怪大戦争が繰り広げられたりと、なかなか賑やかな内容であります。


 ……が、にもかかわらず読後感がすっきりしないのは(個人的に淡々とした文体があまり合わないというのは別にしても)、要素を盛り込みすぎて、雪乃のキャラクターがぼやけてしまったかな、という印象はあります。 もう少し雪乃が一人で頑張っても(戦っても/ピンチになっても)良かったのではないかな……というのはこれは趣味の問題かもしれませんが、冷静に考えると彼女が何のために戦っているのか、それが今ひとつ伝わってこないのは残念。

 冒頭に述べたとおり、主人公像のユニークさはかなりのものがあるのですから、それをもっともっと前面に出していただければ……というのが正直な印象であります。


『雪姫もののけ伝々』(嵯峨野晶 廣済堂モノノケ文庫) Amazon
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