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2014.10.10

『るろうに剣心・裏幕 炎を統べる』 裏幕の裏側のそのまた裏に

 先日公開された劇場版も好調との『るろうに剣心』の外伝『裏幕 炎を統べる』が単行本化されました。剣心最大の敵・志々雄真実劇場版公開に合わせて前後編で雑誌掲載された漫画に、黒碕薫による、同じ物語を別の角度から描いた小説版が併録された一冊であります。

 志々雄が決起し、剣心と対峙する前年――十本刀の初集結を前に、密かに吉原に入った志々雄を主人公に、彼と最後まで運命を共にすることとなる由美の出会い、軍人集団・弘原海兵団を率いる一ヶ瀬鮫男との対決を描く『炎を統べる』。

 前編については雑誌掲載時に感想を書きましたが、後編まで通しで読んでみると、志々雄の物語としては、期待したよりはシンプルな内容だった……という印象であります。

 が――これが志々雄と由美の物語として見ると、俄然印象が変わります。あの志々雄が最後まで側に置いた由美とはいかなる女性なのか。いや、何故由美を側に置いていたのか。

 この辺りは、原作の志々雄の最後の場面から逆算したものとはいえ、志々雄の心の密かな揺れを描いているのが強く印象に残るところであり――そして両親の、自分自身の仇であるはずの相手に、自ら望んでその身を任せることとなった由美の想いもまた、それなりに頷けるところであります。

 なるほど、本編では描写が難しい部分を描いてみせたのは、確かに「裏幕」と言うべきかもしれません。


 しかし――個人的により印象に残ったのは、実は黒碕薫の小説『その翳、離れがたく繋ぎとめるもの』であります。
 本作は、『炎を統べる』と同じ物語を別の角度から描いた作品。漫画と小説と、メディアの違いこそあれ、ずいぶんと大胆な構成だと思いましたが、これが面白い。

 本作の主人公は、志々雄の忠実な側近・佐渡島方治と、由美の妹分の華火。漫画版の主役カップルの、それぞれある意味一番近くにいた者であります。
 もちろん物語の始まりと終わりは漫画版と同じであることは言うまでもありませんが、しかしこの二人の目に映るものは大きく異なります。

 ファン的な視点で言えば、まず面白いのは、方治の目から見た十本刀像と、彼らと志々雄の出会いの物語。特に後者は、本編では十本刀全員のそれが語られてはいないだけに、興味深いところであります。
 個人的には、当の方治自身の過去――元は明治政府の官僚であった彼が何故政府に絶望したのか、そして志々雄とどうやって出会ったのか、その過去がある史実に繋がり、そしてそれが志々雄の資金源の謎にまで……というのにはニヤリとさせられたところです。

 しかしそれ以上に印象に残るのは、方治と華火の交流であります。
 己の仕事以外に全く興味がない方治と、遊女の華火――たとえ場所が遊郭だとしても、色っぽい状況が生じそうにない二人に何が起こったのか? 本作は実にこの点を中心に描かれていくこととなります。

 それぞれにベクトルは違えど世間知らずで不器用な二人。そんな二人の心が徐々に触れ合い、時にコミカルに、時に艶っぽく関係が深まっていく様は、ある意味お約束の展開に見えるのですが……
 それがある瞬間、全く別の意味を持っていたことが示される終盤には、大いに驚かされました。

 裏幕の裏側を描いた作品の、そのまた裏から見た時に何が見えるか……こういう趣向にはひどく弱い私は、この点だけでも大いに評価が高くなってしまうのであります。


 ちなみにこの小説版、漫画版には登場していない本編の登場人物が一人登場しているのですが――本編でちょっと突っ込みどころだった部分のフォローがここで入っているのがまた楽しいところではあります。


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