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2014.10.06

『月に願いを 姫は、三十一』 二つのクライマックスの先に待っていたもの

 静山のもとに某大藩から持ち込まれた依頼。それは上屋敷で百人近くの藩士が死んでいた謎を解いてほしいというものだった。全ての恋に破れ、この事件解決に打ち込む静湖。一方、静山に迫る陰謀の黒幕もいよいよ正体を露わそうとしていた。全ての事件の謎は解けるのか、そして静湖の運命の人は…

 『妻は、くノ一』のスピンオフ、『姫は、三十一』もこの第7作でついに完結であります。
 新年早々、数万年に一度のモテ期到来と占われたのが当たったか、現れるわ現れるわ、一時は十数人もの恋人候補が現れた静湖。自立のために始めた「謎解き屋」としても活躍し、恋に仕事に充実しまくりの毎日であります。

 しかしここに来て、実は占いは間違いだったというとんでもない真実が露呈。そのためか、あれだけいた恋人候補も一人去り、二人去り…と、静湖の周囲から、ほとんど全員いなくなってしまうことに――

 と、シリーズの前提が完全に覆されるというとんでもないヒキで終わった前作。ある意味、これほど続きが気になる作品はありませんが、ラストに来て静湖が挑むのは、シリーズ史上、いや時代ミステリ史上でも屈指の怪事件であります。

 静湖の父・静山から回ってきた事件――それは、某大藩(門が特徴的で、火消しが有名で、北のほうにある大藩)の上屋敷で、実に百人近くの藩士が全て死んでいたという前代未聞の事件でした。

 偶然か、火消しや中間、腰元たちは全て屋敷から離れていて無事であったものの、藩士たちは屋敷の至る所で、ただ一人の生存者もなく息絶え、一体何が起きたのか皆目見当もつかぬ有様。
 金蔵を狙った強盗か藩に恨みを持つ者の復讐か、犯人や手段はおろか、動機すらわからぬ事件に、静湖は翻弄されることとなります。

 一方、静山の方も、かつて(『妻は、くノ一』で)彼が行った幽霊船貿易を逆手に取ったような幽霊船を操る怪人チャーリー・チャンを追うのに忙しい状況。
 幽霊船に松浦家の家紋をつけてわざと幕府の目を引きつけて濡れ衣を着せ、自分たちは異国との貿易を牛耳ろうとする一味の正体は何者なのか、そしてその陰謀を止めることができるのか――こちらもクライマックスであります。


 このように、静湖の挑む事件と静山の挑む事件、本作はいわば二つのクライマックスを持つ作品であります。
 そして正直に申し上げれば、その結末は、いささか呆気ないと言えば呆気ないと言えるかもしれません。

 ある意味○○ミス的な真相が語られる(しかし、そこに至るまでの手がかりの見せ方がまた絶妙なのですが)前者と、いささか理想論に過ぎるような結末を見せる後者――
 厳しいことを言おうと思えば言えるのですが、しかしその気にならないのは、静湖たちキャラクターの面白さが絶妙な緩衝材となっているのもさることながら、二つの事件に、作者なりの批判意識が見て取れる点によります。

 江戸時代の某藩を題材としつつも、現代のどこかを彷彿とさせる舞台。いつの間にか互いに引くに引けなくなり、刃を向けあう男たち――多分に戯画的ではありますが、そこには作者のいまこの時この場所に向けた眼差しがあるのです。


 そしてクライマックスはもう一つあります――そう、静湖にとっての運命の人は誰であったのか?

 それをここで明らかにはしませんが、初めは「えっ、そうなの?」と思わせつつも、ちゃんと計算されていたことがわかってくる仕掛けには脱帽です。
 何よりも、今までシリーズのギャグシーンで機能してきた――そして緊迫感溢れる本作では存在を忘れかけていた――あの要素が、最後の最後で生きてくるのが、実に心憎いのであります。

 慌ただしかった一年も終わり、新たな年に姫を待っているのは…それは間違いなく、前年よりも素敵なものでありましょう。見事な大団円でありました。


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姫は、三十一 (7) (角川文庫)


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