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2014.10.24

『忍び道 忍者の学舎開校の巻』 非情から有情の新たな忍者へ

 貧しい山村の少年・一平は、公儀のために働けるという言葉に誘われ、妙義山に向かう。そこで彼が入れられたのは、公儀隠密の劣化を憂う幕府が設立した忍者の養成学校だった。自分と同様に諸国から集められた少年少女たちと切磋琢磨するうちに成長していく一平だが、学校を狙う風魔忍者の影が……

 デビュー以来、これまで大半の作品が忍者もの、それも極めてユニークな作品揃いであった武内涼の新作は、これもユニークな忍者ものであります。

 舞台となるのは五代将軍綱吉の時代。赤穂浪士の討ち入り騒動をきっかけに、公儀隠密の質の低下が指摘される中、幕府重職がその打開策として提案したのは、何と忍者の養成学校の開設でありました。
 かくて伊賀・甲賀から選抜された講師陣により、妙義山中にその学校は開設、諸国から身分を問わずその素質を見いだされた少年少女たちが集められることに……

 という基本設定の下に描かれる本作の主人公となるのは、天領の貧しい山村で生まれ育った少年・一平であります。
 村での暮らしに大きな不満はないものの、やはり外の世界に触れてみたい、そしてご公儀の役に立ちたいと願う彼は、村にやってきた学校のスカウトマンについて、妙義山へ。

 そこで自分たちと同様の少年少女と出会い、伊賀・甲賀、男組・女組に分けられた一平は、忍者の基本となる様々な知識・技術を教えられることとなります。
 その中で友達となった者、対立する者――様々な人間関係が生まれるなか、村では到底得られないような経験を経て成長していく一平。しかしそんな彼らを篩にかける試験が行われることに。

 そしてそれと時を同じくして、学校を狙う影――風魔忍者たち。ある思惑を秘め、内通者を作り出して学校襲撃を狙う風魔忍者たちに、学校の面々はいかに立ち向かうのか……


 冒頭に述べたようにこれまで幾つもの忍者ものを発表してきた作者ですが、本作で描かれる忍びの世界は、それまでとはかなり趣を異にしたものとなります。

 これまでの作品の舞台は戦国時代――すなわち、忍者が最も華々しく活躍し、そして裏を返せば忍者が最も過酷な戦いを繰り広げてきた時代でありました。
 それに対して本作の舞台は太平の世。そもそもが太平すぎて公儀隠密の腕が鈍ったことが物語の発端ですが、忍者を巡る環境は一変したと申せましょう。

 そしてそんな本作における忍者学校も、これまでの作者の作品の――そしていわゆる忍者もので描かれる忍者養成の様の――簡単に言ってしまえば苛烈で殺伐とした世界からはほどとおい、ある意味最も先進的な、理想的な学びの、育ての場として描かれることになります。

 それはこれまでの作者の作品のカラーを期待する向きには、生ぬるいと感じられるかもしれませんが、それは本作の目指すところが学園もの、青春もの、ビルドゥングスロマンである時点で、方向性が異なると言うべきでしょうか。

 しかし――作者の作品で描かれてきた忍者は、単純な潜入工作員、あるいは破壊工作員とは異なる色彩を持っていたものであることもまた事実であります。
 作者の作品で描かれてきた彼らは、それ以上に優れた技術者であり――そしてその技を求める一種の修行者的色彩を持つものであったと私は感じます。

 だとすれば、一人前の忍者を目指して修行を重ねる一平たちの姿は、武内流忍者の本道と、大きくかけ離れてはいないのではないか……そう感じたのも、また事実であります。


 正直に言えば物語内容的にはまだ序章と言うべきでしょうか、あまり派手な展開はありませんし、敵も今一つスケールが小さい印象があります。

 しかしこの特異な忍者ものとしての設定を生かした物語はこれからが本番であるはず。
 クライマックスの、一平たちが未熟ながらも忍者として習い覚えた全てを振り絞って強敵に挑む姿は、これもやはり一個の忍者として力強く感じられます。

 そして何よりも、忍びの道しか知らない非情の忍者ではなく、そこに至るまで、短いながらも様々な人生経験を重ねてきた少年少女たちは、新たな有情の忍者というものを見せてくれるのではないか……そう期待しているのであります。


『忍び道 忍者の学舎開校の巻』(武内涼 光文社文庫) Amazon
忍び道: 忍者の学舎開校の巻 (光文社時代小説文庫)

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