『当世白浪気質』第1巻 死の先にある真実を求めて
時は東京に焼け跡残る昭和23年、美術品泥棒の青年・虎之助は、お宝を求めて迷い込んだ山村で、人形のような美少女・千越と出会う。村のために山の神の使いの狼に嫁入り=生け贄になるという彼女の境遇を知った虎之助は、思わず彼女を救って東京へ。かくておかしな二人の共同生活が始まることに……
好評連載中の『明治失業忍法帖』の前に作者が連載していた作品、そして舞台は第二次大戦直後の時代ということで、以前から気になっていた作品をようやく手に取ることができました。
主人公は白浪=盗賊、それも美術品専門で女好きの脳天気なアプレゲールの美青年、そしてヒロインは生まれた時から神の生け贄として育てられてきた深窓の(?)美少女――
これまたユニークなカップルですが、そんな二人を通じて時代が描かれ、そしてそんな時代を通じて二人の関係性が描かれるのは、本作も同様であります。
そんな本作の主人公・トラこと虎之助は、先の戦争では陸軍として大陸にいた男。ようやく帰ってはきたものの、東京はまだ焼け野原、しかしそんな全ての価値観が滅茶苦茶になった時代こそ、美術品の価値が上がる……と、あちらこちらであれこれ企む小悪党であります。
そんな彼がお宝を求めて向かったとある山村で出会ったのは、屋敷の中に閉じこめられるように暮らす美少女・千越。いまだ古き因習の残る村において、彼女が神に捧げられるための生け贄として育てられていることを知ったトラは、思わず彼女を「盗み出して」逃走、村の追っ手の前にボロボロになりながらも、二人は東京に逃げて……
というのが第1話のあらすじであります。
以降描かれるのは、千越を背負いこむことになりながらも白浪稼業に精出すトラと、そんな彼の妻を自称して微妙な共同生活を送る千越の姿を中心とした連作短編的エピソード。
トラが挑む様々な白浪ミッション、徐々に明かされていく彼の過去とそれを巡る人々の存在、そして進展するようで進展しない二人の関係……
それぞれのエピソードで描かれる美術品の存在とそれを巡るちょっと洒落たドタバタ騒動も実に楽しいのですが、やはり最も印象に残るのはこの二人の特異なキャラクターでありましょう。
都会性の固まりのようなトラと、古い因習に縛られてきた千越。二人の対照的なキャラクターは、トラのアロハシャツ、千越の着物と、そのコスチュームを見ただけでも明確であります。
しかしそれでいて二人に共通するのは、共に死に損ない、そして未来に確たる展望もないこと……その点でありましょう。
実は大陸で非人道的な作戦に従事し、そして戦後はシベリアに抑留されていたトラ。そんな彼が九死に一生を得て日本に帰ってきてからの姿は、自由を謳歌しているようでいて、どこか投げやりな危なっかしさがつきまといます。
そして千越の方はといえば、そもそもが死ぬために生きていたような人生。そんな生から急に解放され、自分の足で立つことを求められたとしても、戸惑うのが当然でありましょう。
そう、本作の中心となるのは、実にそんな似てないようで根本的なところで共通する二人が、焼け跡で寄り添い、少しずつそれぞれの隙間を埋めていく姿。
全ての終わりである死、その死の先にある世界に、何が残っているのか。何が生まれるのか。もしかしたらそれは全てまやかしかもしれませんが、しかし同時にその中にこそ真実があるのかもしれない……
それは実は、この二人だけではなく、この時代に生きた全ての人々の中に大なり小なりあった思いでありましょう。
本作はそれをおかしな二人の中に象徴的に描くとともに――それをラブコメというスタイルの中に巧みに落とし込んでいるのがまた楽しい(そしてもちろんそれは『明治失業忍法帖』に通じる手法でもあります)。
10年近く前の作品ということもあってか、ビジュアル的には少々苦しい部分もなくはないのですが、その時代特有のものといまの時代にまで通じるもの、その巧みな使い分けで物語を紡ぎ上げていく様は、今読んでも実に面白い。
残り2巻も、もちろん近日中に取り上げたいと思います。
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