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2014.11.22

『剣術抄』第2巻 剣術極意書として、娯楽漫画として

 剣豪漫画の第一人者・とみ新蔵による異端にして正道極まりない剣術漫画の第2巻、完結編であります。老剣士・辻月探の下で苛烈な修行を続けてきた青年・吾作。両親や村人たちを死に追いやってきた副家老・加納を討つため、ついに吾作は立ち上がるのですが……

 藩政を牛耳り、圧政を引く加納を討つため、月探に弟子入りしてきた吾作。見かけはむさい老人ながら、おそるべき剣術の腕を持つ月探の下で、吾作は時に苛烈な、しかし極めて理に適った修行を積み、少しずつ腕前を上げていくこととなります。

 しかしこの月探、家に仙女の蘭が遊びに来たり、裏山の洞窟にはタイムマシンが眠っていたりと何かと規格外れの人物。
 これまでも古代ローマや17世紀のフランスに飛んで、その時代、その土地の達人たちと異種武術試合を行ってきた月探ですが、この第2巻の冒頭では、何と後漢末期……かの『三国志』に登場する猛将・呂布奉先と対決することになります。

 が、冷静に考えれば一大イベントのこの対決も、この先に待ち受ける真の大殺陣の、いわば前座に過ぎません。

 月探の下で心身ともに鍛え上げ、ついに怨敵たる加納の屋敷に単身討ち入る吾作。この巻の後半ほとんどを費やして描かれるのは、吾作と待ち受ける加納一派との死闘に次ぐ死闘なのであります。

 しかし不意を突いたとはいえ、襲撃された際の備えはしてあるのが悪党というもの。剣術使いだけでなく乳切木(鎖分銅付きの棒)遣い、火縄銃、果ては二刀流を相手に、たった一人吾作は戦いを繰り広げることとなるのですが……

 ここで描かれる剣術描写こそが、作者の真骨頂。むしろドキュメンタリーのように丹念に、客観的に展開していくその描写は、絵で見る剣豪小説と言うべきか――いや、これだけ実際の剣理に基づいて描かれる剣豪小説など、数えるほどしかありますまい。

 例えばこの戦いで猛威を振るうのは月探直伝の「後の先」――剣豪ものではお馴染みの、相手に攻撃させておいてそのカウンターを取るというあれでありますが、その描写において「剣先のネバリ」という言葉を、概念を用いてみせた作品がどれだけあるか。
 もうこの点だけで痺れてしまうのであります。

 ここで作者のブログを見てみれば、本作は「今東西にはなかった、コマ連絵とセリフで表現した剣術の[極意書」」を企図していたとの由。
 私は、剣豪ものの作家が必ずしも剣術を実践している必要はないとは考えてはいるものの、しかし本作においてはその価値を、成果を心より認めるほかありません。


 その一方で私たち読者を戸惑わせる素っ頓狂な描写――この巻でいえば、蛸の解剖図解や、褌や袴を着けた時の用の足し方、唐突に月探が浄瑠璃を歌い出すなど――も健在なのですが、これはむしろ、剣術極意書に漫画としてのエンターテイメント性を付与しようといたもの……と理解するべきでありましょうか。

 ある意味作者の剣豪・剣術ものの集大成というべき作品であると同時に、作者らしい茶目っ気の溢れた怪作でもある……そんな作品でありました。


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