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2014.11.21

『新・若さま同心徳川竜之助 8 幽霊の春』 幽霊たちのホワイダニットの先に

 快調に巻を重ねてきた『新・若さま同心徳川竜之助』シリーズの第8弾であります。今回竜之助が挑むのは、とある町内で起きたの幽霊騒動。これまで珍事件・怪事件ばかり扱ってきた竜之助にとって、幽霊騒動は珍しくない(?)ように思いますが、しかし事件は意外な様相を呈することとなります。

 ある晩、箱崎で起きた幽霊騒動。それは、川の上を歩む鎧武者、長屋に消えた美女の幽霊、そして金色に輝く猫の幽霊――なんと一晩に三人、いや三霊の幽霊が出現したという奇っ怪なものでありました。
 さらに次の晩にはこともあろうに八丁堀の同心たちの屋敷にまで女幽霊が出現、一連の怪事を無視できなくなった南町奉行所は、この手の事件のエキスパート(?)たる福川竜之助こと徳川竜之助に探索を命じるのですが……

 探索を始めた矢先、件の町内で発見される身元不明の女の死体。さらに猫の死体が不可思議な場所から発見され、俄然幽霊たちとの関係がクローズアップされることになります。
 果たして幽霊の出現は殺人の予告だったのか? 疑問を抱いた竜之助は、長屋から姿を消したある男を探すのですが、事件は全く思いもよらぬ方向に展開していくのであります。

 冒頭に述べたように、これまでも常識では考えられないような奇っ怪なシチュエーションの様々な事件に挑んできた竜之助。
 その奇っ怪さの謎を解く作品の内容は――そしてこれはこのシリーズのみならず、作者の作品の多くに共通する趣向ですが――フーダニット・ハウダニット以上に、ホワイダニットに収斂していく傾向にあります。

 そして本作もそのライン上にあるものであります。
 何故何種類もの幽霊が出現しなければならなかったのか、何故八丁堀にまで出現したのか……その謎が(適度にミスリーディングを交えつつ)解き明かされていく様は、そこに絡むキャラクターたちがいつもながら個性的な面々であるだけに、なかなかに楽しめます。

 しかし本作のユニークなのはさらにその先であります。
 実は比較的早い段階で解き明かされる幽霊のホワイダニット。しかしそのホワイの先にあるものこそが真の……というわけで、いかにも本シリーズらしいクライマックスに雪崩れ込んでいくこととなります。


 と、今回も楽しませていただいたのですが、ラストには作者からの言葉が。
 ということは……そう、本シリーズはこの第8作目で、徳川竜之助のシリーズとして通算21作目で完結となります。

 いささか突然にも感じられますが、作者の言葉を拝見するに、構想が固まった新作を書きたくてたまらないご様子。
 シリーズの人気はもちろんあるのですから、その気になればいくらでも続けて行けそうですが、そこで敢えて新しい作品に向かうのは、いかにも作者らしいと私は感じます。

 元々本シリーズ自体は、一度完結した本編の合間を縫うエピソードとして展開されてきたもの。その意味ではここで完結しても大きな問題はないのかもしれません。
 もちろん、竜之助ややよい、奉行所の愉快な面々など、個性的なキャラクターたちに会えなくなるのは寂しいのですが――既に彼らの物語には素敵な結末が用意されているのですから、あまり引き留めてはいけますまい。
 ここは少し早い春を迎えた彼らを、笑顔で送り出すことといたしましょう。


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