『ふぬけうようよ 猫手長屋事件簿』 ぐうたら大家、魔物に挑む
江戸の猫手長屋の若き大家・代三郎は、日がな一日三味線を鳴らすばかりの怠け者。しかし彼には、故郷の氏神・大猫様から託された魔物退治の務めがあった。来栖家の上屋敷で流行する人々が次々と「腑抜け」になってしまう奇病の存在を知った代三郎は、飼い猫の栗坊とともにこれに挑むのだが…
相変わらず元気な文庫書き下ろし時代小説界ですが、先日スタートした白泉社招き猫文庫には、少々驚きました。
というのも、(佐々木裕一の『公家武者 松平信平』の漫画化等の企画はあったものの)時代小説とはほとんど無縁の出版社から、それも若い女性層がメインターゲットと思しきレーベルなのですから……
と、そのメインターゲットから思い切り外れた読者で恐縮ですが、しかし第1弾のラインナップはなかなか私好み。本作もそんな作品の一つであります。
主人公は、江戸近郊の猫手村の名主の三男坊の青年、代三郎。
名産品の茶の栽培や家の仕事は兄に任せて江戸に出てきた代三郎は、父の持つ長屋の大家兼居付きの茶店の主ではあるものの、普段は好きな三味線を爪弾いて暮らしているという怠け者であります。
もっとも、大家は家賃を集めていればいいというものではなく、店子たちの人間関係にも気を配っていないといけないのですが、この辺りも持ち前の人の良さと人畜無害ぶり(?)で務めをこなしているのですが……
しかし、彼の本当の務めは、なんと魔物退治。幼い頃に池で溺れたところを、村の氏神である大猫様に救われた彼は、江戸に出没する魔物たちを、童子に変じる力を持つ猫の栗坊を相方に、密かに退治していたのであります。
折しも常州来栖家の上屋敷では、知性を失い、ただ唸り声を上げて暴れ回るだけの存在となってしまう「腑抜け」になる人間が続出。ふとしたことからこの事態を知った代三郎は、背後に魔物の影を感じ取るのですが……
というわけで、一口に言ってしまえば長屋もの(人情もの)+ゴーストハンターもの(妖怪もの)とも言うべき本作。
一見相反するこの二つのジャンルを結びつけるのは、もちろん主人公の代三郎の存在ですが、彼のキャラクターの面白さは、まず本作の魅力と言えるでしょう。
彼の嫌みのないぐうたらぶり、太平楽ぶりも良いのですが、何よりユニークなのは、その三味線プレイ。
暇さえあれば一日中三味線を弾いている彼の得意技が、三味線としては常識外れの早弾きというもの面白いのですが、それが実は意外な……というのは悪くないアイディアだと思います。
また本作の中心となる「腑抜け」も、その行動といい伝染力といい、その名とは裏腹のアグレッシブさで、実は○○○もの的な味わいがあるのも面白いところであります。
が、読んでいてどこかすっきりしない印象が残るのは、妖怪ものとしてエンジンがかかるのが――つまりは物語の核心に踏み込んでいくのが――いささか遅いためでしょう。
シリーズの第1弾として設定を提示し、人情ものとして主人公の長屋をはじめとする江戸の人々の暮らしを描こうというのはもちろん悪くありませんが、その部分が正直に申し上げれば、いささか間延びして感じられたところです(会話主体で物語が展開していくスタイルが、またその印象に拍車を……)。
もちろん、先に述べたとおり、人情もの+妖怪ものというスタイルが本作の特色であり、主人公の存在がそれを束ねてはいるのですが……その見せ方はなかなか難しい匙加減なのでしょう。
この辺りのバランスが取れたとき、かなりユニークな作品となるのではないか……と、小うるさい妖怪時代小説ファンとしては感じた次第です。
『ふぬけうようよ 猫手長屋事件簿』(仲野ワタリ 白泉社招き猫文庫) Amazon

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