『江戸猫ばなし』(その一) 猫と鼠と猫絵と
私自身が猫好きの時代ものファンだから感じるのかもしれませんが、時代ものと猫というのは、なかなか良い取り合わせのように感じます。そして七人の作家による書き下ろし短編を集めた本書もそんな取り合わせの一冊。ここでは、収録作のうち、このブログ的に気になる作品を幾つか取り上げましょう。
『主』(赤川次郎)
赤川次郎といえば真っ先に思い浮かぶのは『三毛猫ホームズ』シリーズ、そして時代小説には以前NHKでドラマ化された『鼠』シリーズが……と、猫とも鼠とも縁のある作者による本作は、一風変わった構造の奇談。
賞金の十両に釣られ、酒の勢いもあって、次々と怪死する人間が出たという<猫寺>で肝試しすることとなった何でも屋の市助。
ただ一人その寺で夜明かしすることとなった彼の前に、果たして怪しげな影が……
という、いかにもな怪談から始まる本作は、しかし物語が進むにつれ、次々とそれまでと異なった様相を見せることとなります。
あの人物が、あの出来事が、裏に隠れた真の顔を、隠された秘密を見せていく物語はめまぐるしいのですが、しかしそれをきっちりとまとめるのはさすが作者ならではでしょう。
ラストのある人物(?)の台詞も印象的な一編です。
『与市と望月』(小松エメル)
いまや妖怪時代小説の代表選手の一人というべき作者の作品は、猫絵師と猫絵――の中から出てきた猫の物語であります。
猫絵師とは(漫画のおかげでご存じの方も多いと思いますが)鼠除けとする猫の絵を売る稼業。本作の与市もその猫絵師ですが、彼とともに旅するのは、その猫絵から抜け出てきた、人語を喋る猫の望月。
これだけならば望月には大層ご利益がありそうですが、しかし望月は大変な臆病者、仕事をしくじっては、与市に怒鳴られ、イジメられる毎日であります。
本作は、そんなおかしなコンビが旅先で出会った男の依頼で向かった先の屋敷で出くわした怪事件を描くのですが――真の物語は、その事件が解決した先にあります。
ドSっぷりを発揮して望月をイジメる与市。しかし彼の心の中にあるものは……いやはや、それまで(共依存のDV男みたいだなと)彼に抱いていた印象が一変するような真実にはやられました。
人間と妖怪を通じ、他者との関係性を描いてきた作者らしい一編であります。
長くなりますので、次回に続きます。
『江戸猫ばなし』(赤川次郎ほか 光文社文庫) Amazon

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