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2014.11.26

『運命師降魔伝』 混沌の世の中に観た過去と未来の正体

 天災や飢饉が続く室町時代、その両手の長い指で、相手の頭を掴むことで、過去・未来が見えると都で評判の占い師・幻六。ある日、都一の豪商を占うこととなった彼は、奇怪な猿の魔物の姿を幻視、その晩に豪商は怪死を遂げてしまう。果たして魔物の正体は、そして封印された幻六の過去とは……

 小沢章友といえば、最近は児童向けの歴史ものでの活躍が目立ちますが、このブログとしてはやはり平安時代を中心とした幻妖怪奇な伝奇ものの名手と言うべきでしょう。
 本作は、そんな作者が室町時代、応仁の乱の前夜とも言うべき時代を舞台に描く伝奇もの。双葉社のWEBマガジン「カラフル」において『運命師幻六秘話』のタイトルで連載された作品であります。

 本作の主人公は、都で評判をとる運命師(占い師)の男・幻六。人並み外れた巨体と常人離れしたくっきりした目鼻立ちで、都の遊女たちの間でも評判の男です。

 その長い手の指で客の頭を掴むことで、相手の過去や未来を見ること幻六ですが、何故そんな力を持つかは彼にとっても謎の一言。いやそれだけでなく、彼にとっては自分の過去そのものが謎に包まれているのであります。

 ある日、記憶をなくした状態で海岸に打ち上げられていた彼の脳裏に幽かに残るのは、いくつもの角を生やした巨大な鬼が、人々を虐殺していく姿。
 その記憶が意味するものは何なのか、自分でもわからぬまま、その日その日を無頼に過ごしていた幻六は、やがて都の闇に蠢く奇怪な者たちとの戦いに巻き込まれることとなります。

 奇怪な魔像を奉じ、強大な念力で人々を操る道師。昼と夜で絵が変わる奇怪な絵巻を手に日野富子と今参局に接近する絵師。奇怪な一団を率いて都を騒がす猿面をかぶった盗賊。そしてそれらの背後で糸を引く、奇怪な猿の魔物――

 幾度となく立ち塞がる猿魔との戦いの一方で、日野富子ら都を牛耳る権力亡者たちと否応なしに関わることになる幻六。
 そしてやがて彼が知ることとなる彼自身の出自は、想像を絶するものだったのですが……


 いかにも作者らしく、混沌とした時代を舞台に、妖しく謎めいた事件の連続で展開していく本作。人の過去と未来を読むことができても、自分自身のそれを知らぬ幻六のキャラクターが、さらに物語の行く先を混沌としたものとしていきます。

 やがて解き明かされる幻六の正体もまた凄まじく、作者のファンとしては(名前のみとはいえ、あの陰陽師の家系も登場!)、そして室町伝奇好きとしては大いに楽しめる作品、と言いたいところなのですが――
 しかし残念ながら、物足りない部分があるのも事実であります。

 幻六が往く先々で遭遇する奇怪な事件や人物、そして彼の過去に眠るもの……いずれも個性的であり、それが本作の魅力となっているのは間違いありませんが、いささか説明不足、描写不足に感じられます。

 歴史上の人物など、常識でカバーできるものではなく、本作独自の人物・概念等が、簡単な説明のみで作品世界に登場する様には、誠に失礼ながら、本作はシリーズの2巻以降であったかと感じさせられました。
 それらがなかなかに魅力的であるだけに、残念なところであります。


 もう一つ、運命師が結局運命の環から逃れられず、そこに飲み込まれたかのようなラストも個人的には残念だったのですが……この点は避けられぬ結末だったと思うべきでしょうか。
 果たして結末で触れられた別の物語が語られることがあるのか――それはわかりませんが、キャラクターや設定は十二分に魅力的であっただけに、ここで終わるのは勿体ないとも感じられます。


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