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2014.11.24

『弥次喜多化かし道中』 狐弥次郎兵衛と狸喜多八の珍道中はじまる

 年に一度、多摩で行われ、負けた方は、けもの汁にされて奉納されてしまう狐と狸の化け相撲。その代表となった狐の弥次郎兵衛と狸の喜多八は、思わぬ事から意気投合、勝負を放り出し、人間になるために伊勢に向かう。しかし人間の常識を知らぬ弥次喜多は、行く先々で騒動に巻き込まれることに……

 集英社コバルト文庫の『炎の蜃気楼』シリーズで知られる桑原水菜が一般向けに書き下ろした二作目の時代小説であります。
 第一作目の『箱根たんでむ 駕籠かきゼンワビ疾駆帖』は、箱根を舞台とした駕籠かきが主人公の作品ですが、新シリーズの本作は、東海道を舞台に弥次さん喜多さんが珍道中を繰り広げる物語……

 とくれば、これはどう考えても十返舎一九の『東海道中膝栗毛』ですが、本作はそれを下敷きにしつつ、とんでもない方向に想像力を膨らませた作品であります。
 というのも本作の弥次さん喜多さんは狐と狸――それぞれに事情を抱えた化け狐と化け狸なのであります。

 ことの起こりは多摩のくらやみ祭り(現代まで続いている例大祭)の裏で毎年一度行われる狐と狸の化け相撲。土地神である七之宮様の生け贄を決めるため、狐と狸の代表選手が化け勝負を繰り広げ、負けた方はけもの汁の具にされてしまうという過酷な勝負であります。

 そしてその代表選手が狐の弥次郎兵衛と狸の喜多八なのですが、二人ともそんな命がけの勝負をしたいわけがありません。
 弥次さんは想いを寄せる人間の娘と結ばれることを、喜多さんは優しくしてくれた茶店のお婆さんが教えてくれたおいしいうどんを食べることを……それぞれ夢見ていたのであります。

 と、偶然勝負前に出会った二匹は、密かに示し合わせて狐と狸、それに人間までも一杯食わせて一路お伊勢様へ――というのが第一話「多摩の化け相撲」のお話であります。


 かくて東海道を旅することとなった弥次さん喜多さんですが、彼らがあの弥次さん喜多さんのモデルとなった……わけではなく、『東海道中膝栗毛』が書かれてから数十年後の世界が本作の舞台。
 そんなわけで作中でもあの弥次さん喜多さんのような……的な形容が入るのですが、もちろんというべきか、こちらの弥次喜多コンビは原典に輪をかけての珍道中であります。

 というのもこのコンビ、旅はおろか、人間の生活の知識はゼロ。見よう見まねで街道で旅をしてみるものの、お金の存在すら知らないのですから、騒動にならない方がおかしいのです(そんなコンビが何故人間の姿で旅をするかといえば、獣の姿で旅をすると、地元の獣の縄張りに踏み込んでややこしいことになるからという……納得)。

 第2話「保土ヶ谷宿にて御馬騒動に遭う」では、朝廷への御馬進献の行列から奪われた御馬を巡っての大騒動に、第3話「小田原宿で鯉と観音に伺いを立てる」では、意地の張り合いから一つの旅籠を二つに分けてしまった姉妹の仲裁に、彼らは巻き込まれることになります。

 実はこれらの騒動は必ずしも彼らが引き起こしたものではなく、人間が起こした騒動に彼らが巻き込まれている状況ですが、人間ですら困るような騒動の中で、彼らが見せるリアクションはそれなりに楽しめます。

 個人的には、人間たちと狐や狸たちの違いをもう少しはっきり対比しても良いように思いますし(なまじ狐や狸も人間と同様の喜怒哀楽を持つだけに……)、比較的ギャグなども抑え気味の印象もあるのですが、それはこれからの展開に期待、というところでしょうか。

 何しろ、東海道の旅の最大の難所というべき箱根の、それも関所越えはまだこれから。
 手形を持っているわけもない二匹がどうやって関所を越えるのか、この先の展開に期待であります。


『弥次喜多化かし道中』(桑原水菜 集英社文庫) Amazon
弥次喜多化かし道中 (講談社文庫)


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