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2014.11.29

『風魔外伝』(その一) 語られざる風の物語

 かつて戦国時代から江戸時代にかけて、大きく世界が変わる中を颯爽と駆け抜けた最強の忍びが帰ってきました。漫画化もされた宮本昌孝の快作『風魔』の前日譚・後日譚を集めた『風魔外伝』です。これまで『小説NON』誌に掲載されてきた5つの短編が、ここに一冊にまとまったのであります。

 その並外れた巨躯と、それに似合わぬ人の域を超えた俊敏な動きから、風の神の申し子と呼ばれ、味方からはこよなく愛され、敵からはどこまでも恐れられた忍び・風魔小太郎。
 北条氏に仕えてきた彼と風魔一族が、北条氏滅亡後に繰り広げられる豊臣・徳川の暗闘の中、自由を求めて大暴れする姿が『風魔』において描かれましたが、本作は、登場人物の若き日の姿、そして本編の物語が終わった後の世界が描かれることとなります。
 以下、一話ずつ紹介していきましょう。


『魔王の風』
 戦国時代も後期というべき天正10年(1582)、少年時代の小太郎(といっても姿や言動は既にあの小太郎なのですが)が主人公の物語であります。
 戦国で「魔王」と言えば、言うまでもなく織田信長。その魔王信長と、風神の申し子・小太郎の最初で最後の遭遇が描かれることとなります。

 宿敵であった武田家をついに滅ぼした信長。戦勝祝いの使者として信長のもとに向かうこととなった、風魔にとっては主であり恩人でもある北条幻庵を警護して、小太郎は信長と対面するのですが……

 これまで『剣豪将軍義輝』『ふたり道三』『陣借り平助』『海王』『乱丸』と、多くの長編に登場して重要な役割を担ってきた(しかし決して主役にならないのが面白いのですが)信長。
 その信長と小太郎の対面は、ある意味夢の顔合わせであります。

 先に述べた通り、両者の顔合わせはこれが最初で最後となってしまうのですが、いかにも信長らしい無茶な腕試しを受けて、とんでもない神業を平然と見せるのは、これまたいかにも小太郎らしい。
 小太郎の永遠の主君たる氏姫もほほえましい姿を見せ、ある意味本書の中ではもっとも『風魔』本編に近い内容でありましょう。


『信濃のすずかぜ』
 本作は、本編のもう一人のヒロインであり、小太郎とは後に相思相愛となる女忍・笹箒の生い立ちから、小太郎と出会うまでを描く物語。必然的に比較的に長い時間を描く物語ですが、メインとなるのは『魔王の風』とほぼ同時期なのも面白いところです。

 生まれてすぐに両親をなくし、武田女忍群・梓衆の総帥というべき望月千代女に育てられた笹箒。
 同じような境遇の仲間たちと固い絆を結び、女忍としての修行に励む彼女の運命を大きく変えることとなったのは、武田家の滅亡でありました。

 密かに想いを寄せる武田太郎信勝(勝頼の嫡男)を落ち延びさせる任務を果たすべく、彼女は必死に走るのですが……

 いかにも宮本作品のヒロインらしく、苦しい中でも人として正しい道を歩もうとする凛とした姿を見せる笹箒。そんな彼女が、しかし信勝の前では文字通り恋する乙女のようになってしまうのもまた、好ましいものがあります。
 その人間的な想いが彼女に哀しみをもたらすことになるのですが、しかしそんな彼女を優しく包み込むようなラストの一文が泣かせるのであります。


 長くなりますので次回に続きます。


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風魔外伝


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