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2014.12.31

『独眼竜の忍び 伊達藩黒脛巾組』下巻 敗者たちの希望の物語

 奥州で勃発した葛西大崎一揆の背後で激しくぶつかり合う伊達の黒脛巾組と徳川の伊賀忍者。伊達家を取り潰さんとする徳川の陰謀に敢然と立ち向かう袰部の小源太らの戦いを描く『伊達藩黒脛巾組 独眼竜の忍び』の下巻であります。次々と繰り出される敵の奸計の前に窮地に陥る伊達家の運命は……

 小田原征伐後のいわゆる奥州仕置をきっかけに、新たな体制に不満を抱く地侍や百姓たちが起こした葛西大崎一揆。その背後には、一揆を煽り、さらに伊達家がそこに関わっていたという証拠を捏造せんとする伊賀の忍びたちが関わっておりました。
 もちろんこれは関東から虎視眈々と天下を狙う家康の奸計。これに立ち向かうのは、伊達家に仕える忍びたちの中でも精鋭ぞろいの黒脛巾組――頭領の小源太以下、七人の達人たちであります。

 一揆が激化するのと平行して、蒲生氏郷ら、秀吉子飼いの政宗に対する目は冷たくなるばかり。一揆勢との戦闘、伊賀忍びとの暗闘、そして政治の場での苦闘……伊達家を巡る情勢は悪くなっていくばかりの中、果たして小源太に、そして政宗に反撃の目は――


 これは時代小説、歴史小説にとってやむを得ないことではありますが、史実を知ることが、イコール物語の先を指し示すことになります。その意味ではこれからここに書くことは物語の核心に触れかねぬことではありますが、史実ということでご勘弁いただきましょう。
 さて、その史実とは――これはあえて上巻の紹介では触れずに来たことではありますが――政宗と葛西大崎一揆の関わりであります。

 この一揆、実は政宗が陰で煽動していたという説が有力。奥州仕置で領地を奪われた政宗が一揆を起こさせて新しい領主を追い払い、そして一揆を鎮圧して領地を回復させようとする――そんな筋書きであります。
 一見荒唐無稽に見えますが、政宗から一揆勢に送ったという書状なるものが見つかり、政宗が一揆鎮圧の最中に秀吉に召喚、評定の場に引き出されたのは史実。少なくとも周囲から政宗がそういう目で見られてことは間違いありません。

 そしてそんないわば自作自演の一方で、伊達軍が一揆鎮圧中に非戦闘員までも撫斬りにしたということも相まって、この一揆、下世話な言い方をすれば政宗のDQN伝説を彩るエピソードとして後世に残っているのであります。
(評定に向かう際、キリストの真似をして磔台を引きずっていったというのもまたその印象に輪をかけます)

 さらに一揆鎮圧後、政宗が領地の交換(実質的没収)を受けたことを考えれば、政宗の意図がどうであったにせよ、結果だけ見れば政宗は「負けた」と言えるように思われます。


 が、あくまでもそれは結果だけを見ての話であります。事件の真相は何であったのか。戦いの陰で何が行われていたのか。あり得た(より悪い)別の結末があったのではないか――
 変えられない「史実」に対した時、結果は変えず、その陰にある過程を描いてみせることで、「真実」を浮かび上がらせてみせる。時代小説には、なかんずく時代伝奇小説には、そんな「敗者の希望」ともいうべきものが籠められています。

 その意味ではまさに本作はその希望を描き出す作品であります。
 次々と仕掛けられる陰謀により戦局は混迷し、政宗の悪名は高まるばかり。そして待ち受けている結末が「敗北」である中で、小源太たち黒脛巾組はいかなる働きを見せ、最悪の結果を変えてみせたのか……本作で描かれるのは、それであります。

 そして忘れてはならないのは、蝦夷や安倍氏、藤原氏と、奥州という地が、歴史的に見れば常に敗者となる地、敗者が住まう地であったことでしょう。そして作者が、常にその敗者の側に立ってきたことも。
 そう考えてみれば、この時代の奥州の王とも言うべき伊達政宗も確かに敗者であり、そして作者の描く物語、敗者の希望の物語の中心にあるに相応しい存在なのであります。


 正直に申し上げれば、史実は上に述べたとおりゆえ、すっきりしないものは残ります。
 しかし、ここに描かれる誇り高き敗者の姿と、彼らの抱いた――そしてその一端は後に実現されることとなる――希望を思えば、胸に強いものが残るのも事実。

 この先、政宗が、伊達家が、奥州が辿る運命が激動の連続であることは、史実が示すとおりであります。
 だとすれば、その陰に如何なる希望があったのか……この後に続くであろう物語は、それを描くものになるはずであり、そしてその内容を考えることは何とも心ときめかせることなのです。


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