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2014.12.09

『おにのさうし』 女と男と鬼と

 十数年前に天野喜孝の挿絵で刊行された『鬼譚草紙』から、夢枕獏の文章のみを独立させて再刊した短編集であります。いずれも平安時代の説話集や絵巻をベースに、エロチックな、しかしどこかもの悲しく、そして美しい物語が描かれることとなります。

 本書に収録されているのは『染殿の后、鬼のためじょう乱せらるる物語』『紀長谷雄 朱雀門にて女を争い鬼とすごろくをする物語』『篁物語』の三編。
 いずれも9世紀とほぼ同時代を舞台としつつも、それぞれの内容は全く異なる作品たちですが、そこに共通するのは本書のタイトルにある「鬼」の存在であります。

 以下、簡単に個々の収録作品を紹介いたしましょう。


 『染殿の后、鬼のためじょう乱せらるる物語』は、染殿――文徳天皇の女御・藤原明子に憑いたもののけを調伏した真済聖人が、垣間見た染殿の美しさに惑乱し、死して後鬼と化して染殿と愛欲の限りを尽くすという物語。
 本作の内容は、基本的に『今昔物語集』をはじめとする説話集に描かれたものを踏まえたものですが、大きく異なるのはその結末であります。
 真済を調伏するために招かれた相応和尚。衆目を憚らずに交わる二人の姿を見た相応のとった行動は、そしてそれに対して真済は――

 その内容をここで述べるわけにはいきませんが、一見理不尽に見えるそれぞれの行動は、しかしそれだけに「人間」の在り方として強い印象を残します。
 そしてもう一人、染殿もまた……


 続く『紀長谷雄 朱雀門にて女を争い鬼とすごろくをする物語』は、本書の題材の中でも最も知られたエピソードがベースとなっていると言えるでしょう。
 朱雀門の鬼と双六で勝負することとなった紀長谷雄が、勝負に勝って絶世の美女を手に入れるも――という『長谷雄草紙』を踏まえた内容は、その美女の末路と意外な正体が相まってフランケンシュタインテーマについて語る際などに言及される印象があります。

 しかし原典とは大きく異なり、本作においては双六勝負以前の物語から――そして同時代の歌人たちの姿を併せて――語ることにより、長谷雄の特異な、しかし極めて人間的な姿を浮き彫りにするのであります。

 その長谷雄像は、物語の結末においても、実に印象的な姿で描かれるのですが、鬼すらも呆れるほどの業を抱えた姿もまた、人の在り方であると感じられるのです。


 最後の『篁物語』は、タイトルの通り、昼は朝廷に夜は冥府に仕えていたという伝説で知られる小野篁の物語であります。
 百鬼夜行の存在を知るばかりか、その鬼たちの敬意すら集めているかのような篁。ふとした折りに、近くに幻のような姫が寄り添っている姿が見える篁――

 そしてそんな謎めいた篁の人物像を、様々な逸話と絡めて描いた前半に続き、後半ではその謎解きと、そして篁の冥府行が描かれることとなります。
 本作と同じタイトルの『篁物語』で描かれた篁と血の繋がらない妹の禁断の愛を下敷きに、一見感情が欠落したかのような彼の中の情念が描き出されることとなるのですが――

 その篁像そのものももちろん魅力的なのですが、実は『陰陽師』ファンとしてたまらないのは、ここで登場するのが道摩法師――あの蘆屋道満であることでしょう。
 実は先日紹介した『陰陽師 螢火ノ巻』の中で、道満がかつて地獄を騒がせたことがさらりと語られているのですが、それを描いたのが本作なのであります。
(白状すれば、本書を手にしたのもそれを知ったことがきっかけでした)

 と、思わぬゲストに気を取られもしますが、やはりあくまでも本作は篁の物語。姿はあくまでも優美であり、愛する人を一途に思いつつも、その行動を見れば、彼もまた一種の鬼ではないのかと感じられた次第です。


 冒頭で触れたように、本書に収録された作品に共通するのは鬼の存在であります。しかし、鬼といっても様々、人が変じた愛欲の鬼もいれば、人の作った詩歌を愛する風雅の鬼もいる。そして百鬼夜行の鬼もいれば、心の中に鬼を飼う者もいる――

 そしてそこで鬼と対比することで描かれるのは、限りある生の中で悩み、苦しみ、喜び、愛し合う人の姿。
 本書において描かれているのは、この世のものならざる存在、まさに超人的存在である鬼と対比することで、浮き彫りとなる、常の人の姿なのでありましょう。


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おにのさうし (文春文庫 ゆ 2-26)


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