『怪談と名刀』 人と刀と魔性とが織りなす怪談奇談
名刀には逸話がつきものですが、その刀の名が高ければ高いほど、その逸話が神秘的なものとなるのはある意味当然の成り行きかも知れません。本書はタイトルのとおり、そんな名刀にまつわる逸話――それも怪談奇談ばかりを集めた書、昭和十年に出版されて以来、初の復刊となります。
本書の著者・本堂平四郎は、明治2年に生まれて前半生は警察官として活躍。警視庁時代には、時代ものファンにもお馴染みのスリの大親分・仕立屋銀次を逮捕するなどの活躍があったとのことです。
この人物、後半生はそれ自体が一個の小説となりそうなほどの波乱に富んだものなのですが、晩年は文人、そして刀剣研究家として生を送ったとのこと。その成果がこの一冊と見て間違いありますまい。
そんな著者による本書は、冒頭に述べたとおり、名刀にまつわる怪談奇談を述べ、各話の末尾にその名刀の由来・特徴を語るというスタイルでまとめられています。
実は原版は全51編のところ、今回の復刊では、約半数の28編が収録されているとのこと。全話揃っての復刊ではないのは残念ではありますが、原版には怪談以外のエピソードも含まれており、それらをオミットしたとのことなので、まずやむを得ないことかもしれません。
そんなわけで本書に収録された28編ですが、その大半が、人と妖怪怪獣との闘争を描く物語なのが凄まじい。
もちろん刀は武具であり、その威力の大なるを示すに、人外の魔性を相手にするのはむしろ当然の成り行きかもしれませんが、昨今の小説にあるような人間と妖怪の心温まる交流などはほとんど全く存在しない、実に殺伐とした世界観が貫かれているのは逆にすがすがしいのであります。
(いくら人外とわかったからといって、自分と楽しい時間を過ごした俳友を叩き斬るなよとは思いますが……)
名刀奇譚といえば東郷隆『にっかり 名刀奇談』が思い浮かびますが、なるほどこれだけ人間vs人外の闘争をまとめたものは、確かに珍しいかもしれません。
さて、収録されている中には、螢丸の伝説や、犬がやたらと吠えるので首を斬れば実は……といったメジャーな話もありますが、本書ならではのエピソードも当然ながら数多く含まれています。
例えば、『虚空に嘲るもの』で夜の秋葉山に登った勇者を襲う凄まじい怪奇現象・自然現象の数々。『仁王尊の如く』で奥州のとある村に出没する幽霊に立ち向かう意外な勇者(元和6年)の痛快な活躍など……
特に凄まじいのは、幕末を生きたある草莽の志士の一代記自体という前半部分だけでも非常に興味深いのですが、後半、彼が晩年、隠棲して猟師となった後に山女を追っての冒険記となる『藤馬物語』。
彼の弟子が夜の山中に山女と遭遇した恐怖の一夜の描写など、まさしく迫真の一言であります。
そう、本書はスタイルや題材の面白さもさることながら、描写力や文章力もかなりのもの。
奇怪な山賊一味と豪傑が対決する『血を吸う山賊』での「十人――それは数字である。藤平の前には、物の数ではなかった」という一文など、痺れるではありませんか。
そんなわけで非常に満足できる一冊なのですが、やはり残念……というより勿体ないのは、今回収録されなかったエピソードたちでしょう。
すぐ上に述べたとおり、小説として読んでもなかなかに優れた内容であり、残る部分についてもぜひ読んでみたい…というのは正直な気持ちでもあります。
請う続篇。
『怪談と名刀』(本堂平四郎・著、東雅夫・編 双葉文庫) Amazon

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