« 1月の時代伝奇アイテム発売スケジュール | トップページ | 『おにのさうし』 女と男と鬼と »

2014.12.08

『しゃばけ漫画 仁吉の巻』『しゃばけ漫画 佐助の巻』 しゃばけ世界を広げるアンソロジー

 『小説新潮』誌上で約一年間にわたって掲載されたトリビュート企画『しゃばけ漫画』が、『仁吉の巻』『佐助の巻』2冊の単行本となりました。高橋留美子、萩尾望都とビッグネームをはじめとする執筆陣による、『しゃばけ』アンソロジーとも言うべき内容となっています。

 『しゃばけ』シリーズについてはここで説明するまでもないかと思いますが、なるほど個性的なキャラクター、特に妖怪たちの存在は、漫画向きと言えるかもしれません。
 とはいえ、『しゃばけ』といえば、各巻の表紙を飾る柴田ゆうの絵が真っ先に浮かぶわけで、果たして他の絵柄で見て違和感はないものか、そもそも若だんなも仁吉・佐助も意外と髪型その他地味なビジュアルだし……

 などと一瞬考えてしまったのですが、もちろんそれが素人の浅はかさであることは言うまでもありません。
 原作の漫画化あり、オリジナルエピソードあり、発想を自由に展開した作品あり……『しゃばけ』の世界をぐいぐいと広げていくような作品揃いであります。

 さて、それぞれの巻に収録された作品は、以下のとおりであります。

『仁吉の巻』
『屏風の中』(高橋留美子)/『仁吉の思い人』(みもり)/『月に妖』(えすとえむ)/『きみめぐり』(紗久楽さわ)/『ドリフのゆうれい』(鈴木志保)/『星のこんぺいとう』(吉川景都)/『はるがいくよ』(岩岡ヒサエ)

『佐助の巻』
『うそうそ 箱根の湯治についての仁吉と佐助の反省談義(ミーティング)』(萩尾望都)/『ほうほうのてい 落語『千両みかん』より』(雲田はるこ)/『動く影』(つばな)/『あやかし帳』(村上たかし)/『狐者異』(上野顕太郎)/『しゃばけ異聞 のっぺら嬢』(安田弘之)/『しゃばけ4コマ』(柴田ゆう)

 さすがに作品一つ一つについてここでは取り上げませんが、個人的に特に印象に残った作品を3つ挙げれば、『きみめぐり』(紗久楽さわ)、『しゃばけ異聞 のっぺら嬢』(安田弘之)、『ドリフのゆうれい』(鈴木志保)でしょうか。

 『きみめぐり』は、船荷に乗って長崎屋に現れた不思議な老人を巡る物語。何やら大変な存在らしいこの老人、以前にも若だんなのもとを訪れているというのですが……

 という本作ですが、とにかく絵も物語も全く『しゃばけ』として違和感のない内容。あまりのはまりように、読んだ覚えはないけれども、原作の漫画化だったかしらん? と思ったほどですが、やはり本作はオリジナル。
 これまでにも原作者の『まんまこと』を漫画化している――そして何よりも時代漫画家としての地力がある――作者ならではの作品です。

 一方、『しゃばけ異聞 のっぺら嬢』は、ある日突然、若だんなたちの前にのっぺら坊ならぬ女の子の、のっぺら嬢が現れるのですが――こののっぺら嬢、どう見ても現代のおさげ髪の女学生。
 何しろ目も口も耳もない相手だけに意志を交わすだけでも苦労する若だんなたちなのですが、彼女に意外な変化が生じていくこととなります。

 正体不明の彼女は何者なのか、何故ここに現れたのか――その格好とリアクションで何となく予想はつくのですが、しかし結末で描かれるのはこちらの想像を上回るもの。
 なるほど「異聞」ではありますが、意外な真相には原典にもしばしば見られる皮肉さが感じられますし、何よりも「物語」の力を感じさせるのが、個人的には大好きなのです。

 そして最後に挙げた『ドリフのゆうれい』は……タイトルから察せられるように、現代を舞台とした作品。
 どこまでもシュールで、原典のキャラクターもほとんど登場しない本作は、真面目な原作ファンの方が怒り出すかもしれませんが、あらゆるものに命の在り方を認め、そしてそれがすっとぼけた騒動を引き起こすのは、なかなかに「しゃばけ」的ではないかなあ……と思うのです。


 この他にも印象に残る作品はもちろんありますし、そしてそれは読む方によっても全く変わりましょう。
 この企画に参加された漫画家の一人ずつに一つの『しゃばけ』世界がある……というのはさすがに綺麗にまとめすぎかもしれませんが、こんな『しゃばけ』があるのか! という驚きのあるアンソロジーであります。

 ただ一点、個人的に惜しいと思ったのは、原典の重要な要素であるミステリー味がどの作品にも薄目であったことで……もちろん限られたページ数での作品でもありますし、何よりもそこは、畠中恵の『しゃばけ』世界の味だと思うことにいたしましょうか。


『しゃばけ漫画 仁吉の巻』(高橋留美子ほか 新潮社バンチコミックス) Amazon
『しゃばけ漫画 佐助の巻』(萩尾望都ほか 新潮社バンチコミックス) Amazon
しゃばけ漫画 仁吉の巻 (BUNCH COMICS)しゃばけ漫画 佐助の巻 (BUNCH COMICS)

関連記事
 しゃばけ
 「ぬしさまへ」 妖の在りようと人の在りようの狭間で
 「みぃつけた」 愉しく、心和む一冊
 「ねこのばば」 間口が広くて奥も深い、理想的世界
 「おまけのこ」 しゃばけというジャンル
 「うそうそ」 いつまでも訪ね求める道程
 「ちんぷんかん」 生々流転、変化の兆し
 「いっちばん」 変わらぬ世界と変わりゆく世界の間で
 「ころころろ」(その一) 若だんなの光を追いかけて
 「ころころろ」(その二) もう取り戻せない想いを追いかけて
 「ゆんでめて」 消える過去、残る未来
 「やなりいなり」 時々苦い現実の味
 「ひなこまち」 若だんなと五つの人助け
 「たぶんねこ」 若だんなと五つの約束
 『すえずえ』 若だんなと妖怪たちの行く末に
 『えどさがし』(その一) 旅の果てに彼が見出したもの
 『えどさがし』(その二) 旅の先に彼が探すもの

 「しゃばけ読本」 シリーズそのまま、楽しい一冊

|

« 1月の時代伝奇アイテム発売スケジュール | トップページ | 『おにのさうし』 女と男と鬼と »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/60776946

この記事へのトラックバック一覧です: 『しゃばけ漫画 仁吉の巻』『しゃばけ漫画 佐助の巻』 しゃばけ世界を広げるアンソロジー:

« 1月の時代伝奇アイテム発売スケジュール | トップページ | 『おにのさうし』 女と男と鬼と »