『血もしたたるいい男 晴れときどき、乱心』 怪人いや怪物乱入の大混戦
大騒動の末、何とか長崎に到着した作之進(実は源之丞)一行。早速阿片窟に入り浸る源之丞の前に現れた異国の美青年・左丹は、源之丞の魔人の血を狙う吸血鬼だった。左丹から源之丞を奪還せんとする青海だが、物理法則を超越する左丹に歯が立たない。さらに混戦の中、作之進が目覚めるが……
二重人格の青年武士を主人公としたサイコサスペンスかと思いきや、実は狂人と奇人だらけのスラップスティック(血みどろ)コメディだった『晴れときどき、乱心』シリーズ。
一体この先どうなるのか、ある意味最も心ぱ……いや気になるシリーズの最新巻であります。
お人好しで気弱で無垢な作之進と、傍若無人で下品で人斬りの源之丞。一つの身体に二つの精神が宿るようになってしまった二人(?)は、源之丞の類稀な剣の腕に目を付けた医師、実は裏の顔は忍者の青海の計で、長崎に向かうことになります。
その途中、島原で首のない亡霊の一件に巻き込まれた一行は這々の体で長崎にたどり着いたものの、その混乱の中で身体の主導権を得た(気絶するごとに精神が入れ替わるという法則なのであります)源之丞は、狡猾にも作之進のふりをして長崎に上陸。
身体を奪われた作之進は、自分の精神世界の中に閉じこもって暢気に暮らすように……と、大変なんだか収まるところに収まったのか何とも言えぬ状況から始まる本作ですが――
まあ無事に済むわけがありません。
長崎と言えば遊郭、かどうかはわかりませんが、早速足を運んだ源之丞を待ち受けていたのは、遙か昔に我が国を訪れていた異国の吸血鬼・左丹と、彼と行動を共にする謎の怪老女(その正体はなんと……)。
かつてかの織田信長の血を吸って、天保年間の今まで生きながらえてきた丹左、じゃなかった左丹たちは、信長を超える魔人の力を持つ源之丞の血を狙っていたのであります。
が、それを許す青海ではありません。自分が目を付けていた源之丞を奪う者は殺す、とばかりに左丹に襲いかかる青海ですが、しかしガチガチの現実論者である彼にとって、歩く超常現象ともいえる吸血鬼は水と油。
自らの存在の危機にまで瀕した青海、そして最悪のタイミングで目を覚ましてしまった作之進の運命やいかに……
というわけで、ついに吸血鬼まで飛び出してきた本シリーズ。
二重人格の殺人鬼やら鴉の将軍やら天草の亡霊やら、今までも奇っ怪な連中が暴れ回ってきたシリーズゆえ、冷静に考えればそれほど意外ではないのかも知れませんが、しかしその実力は本作でも最強クラスの源之丞と青海を向こうに回して引けを取らぬ、文字通りの怪物であります。
そんな怪物を相手に、超人的とはいえあくまでも人間の主人公たちがいかに勝利を掴むか……と、普通の作品ではなるところですが、そうはいかない、というよりそれには留まらないのが本作。
何しろ登場人物ほとんど全員が、自分勝手な理屈で動き回る(その最たるものが、脳内竜宮城でフラフラしている作之進なのですが)本作だけに、シリアスかと思えばギャグに、ギャグかと思えばシリアスに、全く油断がならないのであります。
……が、これまでこのシリーズに親しんできた身にとっては、この珍味こそがたまらない魅力。
この設定、このストーリーならこうなるだろう、というこちらの予想を超えた展開に、ニコニコしながら振り回されるのが、本シリーズの楽しみ方ではありますまいか。
――といいつつも、さすがにこればかりは全く予想もできなかった状況(まさかあの人物がこんなオチのために使われるとは)で終わる本作。
これまで以上に、「どうするんだこれ……」としか言いようのない結末の先に何が待つのか? 楽しみというか心配というか、その複雑な気持ちがもはやクセになっているのであります。
『血もしたたるいい男 晴れときどき、乱心』(中谷航太郎 廣済堂モノノケ文庫) Amazon

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