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2014.12.01

『鈴狐騒動変化城』 痛快コメディの中に浮かび上がる人の情

 とある城下町の誰からも好かれる小町娘・お鈴に、極悪非道な城の殿様が目を付けた。町中が暗く沈む中、なりゆきから神通力を持った狐のおツネちゃんの命を助けた大工の清吉は、彼女の力を借りてお鈴を助けようとする。町の人々の協力の下、お鈴に化けて城の中に入り込もうとするおツネちゃんだが…

 タイトルを聞き、表紙絵を見て以来、大いに気になっていたのが本作『鈴狐騒動変化城』。これは面白いに違いない、と思いながらいざ本を開いてみれば…むははははは、久々に読みながら笑いが止まらなくなる一冊でありました。

 おそらく江戸時代の、とある海辺の城下町の茶碗屋の娘で、可愛らしさと気立ての良さからみんなのアイドルだったお鈴の存在がそもそもの発端。
 これまたみんなの人気者の呉服屋の若旦那のもとに嫁ぐこととなったお鈴ですが、彼女にかねてから極めて評判のよろしくない城のバカ殿が目を付け、側室に差し出せいと言い出したことから、物語は走り出します。

 もちろんお鈴も若旦那も悲しむまいことか、町中が火の消えたような重苦しさに包まれる中、人一倍凹んでいたのは、お鈴の大ファンだった大工の清吉ら、町の若い衆。
 そんなある日、清吉が親友でアホの喜六とともに捕まえた狐は、何と人間の言葉を喋ることができる狐でありました。折しも世をはかなんで川に身を投げたお鈴を目撃した二人は、自分を逃がしてくれるなら彼女を助けるという狐の言葉を信じるのですが……

 この狐・おツネちゃんの存在から清吉が考えついたのは、一世一代の大仕掛け。城に召し出されるお鈴と入れ替わって、彼女に化けたおツネちゃんが城に潜入、バカ殿が二度とお鈴に手を出さないよう、散々怖がらせてやろうというのであります。
 その企てに乗った皆の力を借り、何とか見かけはお鈴らしくなったおツネちゃんと、医者に化けてつきそうことになった清吉は、いよいよ城に乗り込むのですが……


 美女を守ってバカ殿を懲らしめるのは、洋の東西を問わずお伽噺に見受けられるシチュエーションであります。
 なるほど、本作もおツネちゃんの活躍でバカ殿が懲らしめられてめでたしめでたしなのだな、と勝手に納得していたのですが……
 間違っていました。いや間違っていないのですが間違っていました。

 何しろ、ここで展開するのはお伽噺というより、まごうことなきスラップスティックコメディ。ナンセンス極まりないボケとギャグのつるべ打ちであります。
 そしてもちろん、それが実にいい。

 突然忍者に目覚めるやつ、ゲラになった城の人々、突然の百鬼夜行に剣豪大分身……
 こうして書くと何のことやらさっぱりですが、全部本当のことだから仕方がない。

 そしてそれを描く文章のテンポがいいこと! そこにいるだけでもおかしいどこか抜けた連中が繰り出すやりとりの可笑しさ・楽しさは、落語を小説にすればこうなるというべきでしょうか……
 と、実は本作、作者の新作落語『茶碗屋娘』の長編小説版ともいうべき作品とのことでそれも納得ですが、もちろん凡手にできることではありません。
(そしてまた、伊野孝行の江戸時代の読本を彷彿とさせる挿絵もまたいい)


 と、大いに笑わせてくれる中で、ハッとさせられるような人間観察があるのも嬉しいところ。

 本作のヒロイン・おツネちゃんは、人間に化けられるとはいえ、中身はもちろん狐。人間の情には疎い部分があります。
 先に述べたように、身投げしたお鈴を助けたおツネに、清吉と喜六は礼を言うのですが、何故、自分たちにとっては単なる顔見知り程度のお鈴を彼らが助けようとするのか、そして助けて礼をいうのかが、おツネにはわからないのであります。
(そしてこのやりとりが、思わぬところでリフレインされるのに息を呑むことに)

 しかしそんな人ならざるものの視点を通じてこそ、浮かび上がる人情もあります。
 本作でいささかオーバーに繰り広げられる活劇は、同時に、そんなおツネの目を通じて描き出される人情劇でもあるのです。

 本書のそでにも引用されたおツネの言葉「好きやなあいう気持ちは、なんかおもろいことになって楽しいなあ」は、そんな彼女が理解した、最もプリミティブで、そして好ましい人情でありましょう。

 レーベルとしては児童書でありますが、老若男女誰が読んでも面白い怪作、いや快作であります。


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