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2014.12.20

『独眼竜の忍び 伊達藩黒脛巾組』上巻 昂然たる忍びたち、徳川の奸計に挑む

 小田原征伐に遅参したことで秀吉から減封処分を受けた伊達政宗。密かに天下を狙う家康は、配下の伊賀忍者を奥州に送る。これに対して政宗は配下の袰部の小源太ら精鋭忍者部隊・黒脛巾組に阻止を命じる。しかし時既に遅く、奥州で勃発する一揆。果たして小源太たちは更なる陰謀を阻止できるか……

 今年もユニークな時代小説を数々送り出してきた平谷美樹の今年最後の作品が、本作『伊達藩黒脛巾組 独眼竜の忍び』です。
 これまで御庭番を主人公とした『採薬使佐平次』シリーズはありましたが、本格的な忍者もの、それも末期とはいえ戦国時代が舞台ということで期待が高まるところであります。

 さて、そんな本作の主人公は、伊達政宗に仕える凄腕の忍者・袰部の小源太。元は奥州の雇われ透波が母体の荒脛巾組の出身ですが、その腕を買われ、若くして伊達家最強の精鋭忍者集団・黒脛巾組の頭となった青年です。
 政宗とは同じ年にして初陣を共にし、傍若無人ながらも濃やかな情を持つ政宗とは、一種友情に似た想いで繋がれた主従であります。

 さて、伊達家の黒脛巾組は、伊達政宗の影の戦力として活躍したと言われ、しばしば時代ものにも登場する忍者集団。
 脛巾とはすね当てのことですが、彼らは黒革の脛巾を目印としていたのがその名の由来であり、なんとも「伊達者」の語源である伊達家の忍びらしいと感じられます。

 彼らの実際の活躍がいかなるものであったかは、半ばフィクションのベールに包まれて不明ではありますが、本作においては、荒脛巾組のほか、足軽系・修験者系の三つの系統の忍びを束ねて設立されたという設定であります。

 その黒脛巾組の(物語としての)デビュー戦となる本作の題材は、葛西大崎一揆……というのは、しかし、最初個人的には少々意外に感じました。
 秀吉の奥州仕置で改易となった葛西氏・大崎氏の旧臣や、新領主である木村吉清・清久父子の苛政に反発した農民たちが起こした一揆、という表面的な知識だけでは、何やら小規模に感じられるのですが……これがその内実を見てみれば、なかなかに(この表現はいかがかと思いますが)面白い。

 地侍たちは言うに及ばず、当時の農民たちは、まさに秀吉の刀狩りが示すように、容易に武装集団となりかねない時代。そんな彼らの起こしたこの一揆は、一揆というよりも反乱、戦と言った方がふさわしいような規模だったのですから。
 さらにその鎮圧に当たった側も、政宗と蒲生氏郷という因縁の相手同士(奥州仕置で政宗の旧領に入ったのが氏郷であります)ということで、こちらも一触即発なのであります。

 そして本作において、その一揆や政宗と氏郷の対立の影で暗躍していたのが、家康側の伊賀者――というわけで、ここに展開するのは激しい局地戦と同時に忍び同士の熾烈な暗闘となります。
 『義経になった男』や『風の王国』でも示されているように、元々作者は合戦場面――それもいささかトリッキーな要素のある――を描くのが得手。そこに忍者同士の武と武、智と智の激突が加わるのですから面白くないわけがない。

 そして何よりも気持ちよいのは、小源太をはじめとする忍者たちに、その立ち位置的な暗さとは無縁の、奔放不羈の気概が感じられることでしょう。

 武士の下に位置づけられ、蔑まれることの多かった忍者。それは本作でも例外ではなく、そしてその中でも雇われ者の荒脛巾組は、さらに下に見られる者たちであります。
 しかしそれでも、いやそれだからこそ、小源太たちは決してそんな周囲の目に屈することなく、己自身の力を信じ、昂然と顔を上げて生きるのであります。
 そしてその姿勢は、彼の主たる政宗のそれとも重なるものがあることは言うまでもありません。

 この上巻では徳川方の奸計に後手後手に回っていた感もある彼らですが、果たして逆転の目はあるのか。その気概を貫くことができるのか。
 それを見届ける同時発売の下巻に、すぐに取りかかっているところであります。


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