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2014.12.27

『モノノ怪 海坊主』下巻 動かぬ絵に込められた真

 七年ぶりに帰ってきた薬売りが魔の海の謎に挑む『モノノ怪 海坊主』もいよいよ大詰め。廻船「そらりす丸」を襲う怪現象の数々、そこに込められたある因縁の真を、薬売りが解き明かしたその先に待つものは……

 航路を外れて竜の三角なる魔域に入り込んだことにより、様々なアヤカシや怪現象に襲われるそらりす丸。この巨船に乗り合わせた面々――加世、幻殃斉、兵衛、源慧、菖源らがただ翻弄されるばかりだった中で、一人飄然とこれに対するのは、言うまでもなく謎の薬売りであります。

 相手の最も恐れるものを読み取り、本人に突きつけるアヤカシ・海座頭の前に、さしもの彼も……と思いきやあっさりとこれを切り抜けた薬売り。
 いよいよ一連の怪現象の背後に潜むモノノ怪の形と理、そして真を解き明かさんとする薬売りの前に現れたモノは――


 と、物語自体は、原作たるアニメ版と全く変わらぬ本作。当然、原作を何度も観ている私のような人間にとってはある意味お馴染みの内容なのですが、それでも本作はやはり十分に魅力的に感じられます。

 その理由の一つは、言うまでもなく本作の物語――なかんずく、ここで解き明かされる「真」の内容でありましょう。
 冒頭で述べたとおり原作は7年前の作品ではありますが、未見・未読の方のため、ここで詳しくは触れません。

 しかし、一度解き明かされたかに見えた真――それ自体は十分に納得できるものでありながら、それは真ではなく、その裏側に真の真が、さらにそこにもう一つの真が加わることによって、初めて物語の全貌が見えるという構成の妙があることは、触れざるを得ますまい。
 そしてその構成が、この漫画版にとっては前作(アニメにおいては前の前のエピソード)に当たる『化猫』とは正反対の、ある意味対になる構造であることもまた、大いに唸らされるものであります(おそらくはこの場に『化猫』にも登場した加世がいることも、当然計算されたものでありましょう)。

 しかし、原作の力以上に今回魅力をさせるもう一つの理由は、漫画としての本作の完成度でありましょう。
 物語のみならず、ビジュアル面においても原作を忠実に再現してみせた本作。それがどれだけ困難なことであるか――騙し絵めいた構図と様々なモチーフが組み合わされた画面構成を見れば、それは瞭然であります。

 しかし、単純に見た目を引き写せばそれで事足れりとなるわけでは、もちろんありません。その理由は単純なこと――あくまでもアニメはアニメ、漫画は漫画であり、漫画にはアニメのような動きも音もないのですから。

 しかし、本作はそれでもなお、原作と同じものがここにあると感じさせてくれます。
それは漫画としての力――動きも音もない、しかし止め絵と台詞、そして擬音、その組み合わせの中から、確かに動きと音が感じ取れる……そんな力に本作は満ちているのであります。

 それを可能とするのは、構成の妙はもちろんのこと、それだけではなく、絵――動かぬ絵だからこそ込められる人の想いがそこある故でありましょう。

 キャラクターたちのほんのわずかな表情――それは動かぬ絵だからこそ、より明確にそこに込められた想いが示されるように感じます。
 少なくとも、全てが終わり、源慧に向ける幻殃斉と加世の眼差しの暖かさ――それを描き出しただけでも、この漫画版の価値はあったと感じさせられます。


 そしてモノノ怪は討たれ(アニメでも話題となったあのラスト、ここでも忠実に再現されたラストはさておき)、一つの物語は終わりを告げます。
 が、その先には新たな物語が――

 そう、来年も次なるエピソードが漫画化される『モノノ怪』。
 正直に申し上げて、色々な意味で難しい題材ゆえ、次のエピソードが漫画化されるとは思っていなかったのですが、しかし上に述べた漫画としての絵の力を考えれば、むしろ次こそは漫画化されるべき物語なのかもしれません。

 三度見参の蜷川版薬売り、次も期待しないわけにはいきません。


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