『てのひら猫語り 書き下ろし時代小説集』(その二) 猫と少女の時代小説集
白泉社招き猫文庫の第1弾であり、猫を題材とした時代小説を集めたアンソロジー『てのひら猫語り』の紹介後編です。今回紹介するのは全5編中の残り3編、時海結以・金巻ともこ・あさのあつこによる、これまたユニークな作品ばかりであります。
『着物憑きお紺覚書 縁の袖』(時海結以)
最近はノベライゼーションが多いものの、デビュー作は時代ファンタジー『業多姫』の作者が描くのは、ある意味本書の中では最もユニークな主人公であります。
主人公・お紺の父が営む古着屋に何度も持ち込まれる猫の柄の振り袖。その振り袖を買った娘は不思議な老婆に付きまとわれ、やがて同じように付きまとわれている男性と出会い、結ばれる――そんな噂がつきまとい、店に戻ってきたら買おうという予約まで入っている振り袖であります。
今回描かれるのは、その振り袖にまつわる事件。振り袖を買っていったが、そのために娘の縁談が破談になったと因縁をつけてきた大店の裏を探るお紺と奉公人たちは、この一件の、そして振り袖の正体を知ることとなるのですが……
古着屋に何度も戻ってくる振り袖といえば(作中でも言及されるように)振り袖火事の原因となったそれのように、不吉な因縁を感じさせますが、本作の面白い点は、振り袖が不吉どころか縁結びになるという設定でありましょう。
しかしさらにユニークなのは、お紺の能力。本作のタイトルどおり「着物憑き」――古着をまとうことで、彼女はそこに込められた人の念を自らに取り憑かせ、その品物の来歴を知ることができるのであります。
それによって彼女が知った真実とは……短い中にいささか複雑な設定と物語を盛りだくさんにしてしまった印象はありますが、極めて個性的な作品であることは間違いありません。
『異聞井戸の茶碗』(金巻ともこ)
ある意味タイトルそのままと言えなくもない、しかし一ひねりが加えられた一編。
タイトルを見て気がつく方もいらっしゃると思いますが、落語の『井戸の茶碗』をアレンジした作品です。
困窮しながらも正直もので心正しい浪人父娘が売った仏像、そして茶碗が思わぬ価値を生み、そしてそれが縁となってハッピーエンドを迎えるという原典の流れ、そして登場人物の名や設定はそのままの本作。
しかし大きく異なるのは、そこに浪人の娘が飼っている猫が絡むこと、そして物語が娘の視点から描かれていることであります。
実は冷静に考えると、茶碗の代価に……という原典は結構ひどい話と思えなくもないのですが、それを視点を変えることで綺麗にまとめた印象があります。
ちなみに私は作者の作品に触れるのはこれが初めてですが、アニメ・ゲーム関係の脚本家出身の方とのこと。実は本レーベルに参加しているのは同様の経歴の方が多い印象がありますが、面白い試みかと思います。
『鈴江藩江戸屋敷見聞録 にゃん!』(あさのあつこ)
本書のトリを務めるのは、現代、さらには江戸時代を舞台とした青春小説の名手・あさのあつこの、これまたユニークな一編であります。
主人公となるのは、行儀見習いのため、鈴江藩の上屋敷の奥向きに奉公することとなった少女・お糸。しかし彼女は奉公を初めてすぐに恐ろしい秘密を知ってしまうのです。
――彼女が使える美しい藩主の奥方・珠子の正体は、何と猫だったのであります。
猫が人間になって/化けて……というのは、ある意味猫時代劇には定番パターンではあります。
本作もそれを踏まえているわけですが、しかしそこに本作ならではの新鮮な味わいを加えているのは、自分らしさとは何か、自分自身が本当にやりたいことは何なのかという、いつの時代の若者にも共通する想いを抱いた主人公造形であります。
この辺りパターンを踏まえつつも、しっかりと作者らしい味わいの青春時代小説として成立しているのが楽しいところです。
というわけで全5編を紹介させていただきましたが、猫と少女というモチーフは共通ながらも、いずれも個性的な、実に私好みの作品揃いでした。
ほとんどの作品がシリーズものの第1話としても成立しそうなのも面白いところですが、これはもちろん大歓迎。これをステップに、さらなる物語世界が広がっていくのであれば、それは読み手にとっても書き手にとっても幸せなことではありませんか。
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