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2015.01.08

『決戦! 関ヶ原』(その二) 勝者と敗者の間に

 七人の時代・歴史小説家による関ヶ原の戦アンソロジー『決戦! 関ヶ原』の紹介のその二であります。

『有楽斎の城』(天野純希)
 戦国時代を舞台とした作品を多く描きつつも、いわゆる有名人ではなく、その陰にあった人物を主人公としてきた作者が本書で描くのは、あの信長の弟、織田有楽斎。
 有楽斎といえば、武将というよりもむしろ茶人、というより後者としての名がほとんどかと思いますが、実は本能寺の変・関ヶ原の戦・大坂の陣のいずれにも居合わせた上に、尽く生き延びているという希有な人物です。

 本作は、その有楽斎による一人称で語られるユニークな物語であります。
 信長の弟として周囲からは色眼鏡で見られながらも武将とはさっぱりの有楽斎。そんな彼がようやく見つけた安らぎの世界である茶道においても、師である千利休はいわば政治の犠牲となって命を落とし……

 そんな良いことなしの人生でせめて一花咲かせるべく関ヶ原に参戦した有楽斎――と、お話であればここで彼が大活躍して周囲を見返すという展開になるのですが、「現実」はそんなにうまくいくはずもありません。
 幾万もの兵が入り乱れる戦場の中で翻弄され、いざ敵が向かってくれば腰が抜けてしまうような有楽斎の姿には、思わず苦笑してしまうのですが……

 しかし考えてみれば、そんな彼の姿を笑うことはできますまい。
 戦国時代だからとて、武門の家に生まれたからといって、皆が武将として活躍できるわけでもないというのは考えてみれば当たり前の話。そんな有楽斎を笑うのは、彼の周囲の無神経な人間たちと変わりますまい。

 しかし運命は皮肉なもの。戦の末に彼が得たものとは、そして後の時代に残ったものとは……ここにきて我々は苦笑ではなく、にっこりと笑うことができるのです。


『無為秀家』(上田秀人)
 ここからは敗者となった西軍側の武将を描いた作品となります。その最初の作品は、備前の雄・宇喜多秀家のその時を描いた作品であります。

 西軍の、いや豊臣家恩顧の大名の多くがこの戦の後に早々と命を落とした中で、五十年以上の長寿を保った秀家。
 その意味では極めて特殊な存在とも言える秀家ですが、本作で(作者独特のモノローグの多用により)語られる彼の胸中は、それ以上に特異なものを感じさせます。

 戦国屈指の謀略家として恐れられた父を早くに失い、戦国の荒波に否応なしに揉まれた秀家。その彼の父というべき存在となったのは秀吉であり、そしてその秀吉の子たる秀頼は、彼にとっては弟ともいうべき存在であります。
 それ故に、彼にとって秀頼を(形だけとはいえ)奉じる西軍につくことは考えるまでもないことだったのですが……

 しかしそんな彼を翻弄するのは、戦場での武と武のぶつかり合いではなく、その背後で繰り広げられる政と政のぶつかり合いであった……というのが、文庫書き下ろし時代小説などでも「政」の世界を中心に描く作者らしいところでありましょう。

 まさに勝敗の決するその時となってそれに気付いた秀家の胸中を――そしてその後の運命を思えば、索漠たる想いとならざるを得ません。


『丸に十文字』(矢野隆)
 本書で最も異彩を放つ作者による本作で描かれるのは、期待通りと言うべきでしょうか、関ヶ原の戦である意味最も苛烈な戦闘を行った島津義弘の姿であります。
 期待通りというのは作者がデビュー以来ほぼ一貫して生死の境に身を置いて戦う男の姿を描き続けてきたからであり、そしてその題材として、もはや戦闘民族とも言うべき当時の島津家を題材としたからにほかなりません。

 本国の部隊ではなく、わずかな手勢で参戦、初めは東軍側に参戦したはずが伏見城の戦を経て西軍に参加、いざ戦が始まってもほとんど動かず、勝敗が決した後に敵陣に突撃しての「島津の退き口」……
 冷静に考えてみればかなり無茶を重ねたこの時の義弘の行動ですが、しかしこの作者の筆を通せば、その荒ぶる魂の赴くところに何の矛盾もなかった、と思えてしまうのはさすがと言うほかありません。

 自分の魂の欲するまま、丸に十文字の旗印の下に死地に馳せ参じる義弘らの姿には、むしろ爽やかさすら感じられるのであります。


 残る二編は次回の紹介といたします。

『決戦! 関ヶ原』(伊東潤ほか 講談社) Amazon
決戦!関ヶ原

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