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2015.01.23

『暗闇坂心中』 惨劇と謎の先に浮かぶ「鬼」の顔

 市ヶ谷暗闇坂近くに出た屋台で飲んでいた鬼板師(鬼瓦職人)の多見次の眼前で、逃げてきた娘の首を斬った若い武士。仇を討ちたいという娘の兄に頼まれ、武士を探す多見次だが、彼の心中には隠れた望みがあった……

 戎光祥出版の都筑道夫時代小説コレクションの第4巻『変幻黄金鬼 幽鬼伝』には、簡単に言ってしまえば短編集『変幻黄金鬼』と短編連作スタイルの長編『幽鬼伝』が収録されているのですが、それに加えてもう一編収録されている短編が、本作『暗闇坂心中』であります。

 この『暗闇坂心中』は、作者の『幽鬼伝』の冒頭二編を含む短編集『梅暦なめくじ念仏』に収録されて以来、単行本への収録はなく、私も未読だったのですが、今回ある意味ボーナストラック的に収録されたことで、ようやく読むことができました。

 いずれ『変幻黄金鬼』『幽鬼伝』とも改めてご紹介いたしますが、今回この一編のみを紹介させていただく所以であります。


 さて、そんな本作は、ジャンルで言えばミステリ風味のある時代ホラーと申せましょうか……
 おでんの屋台に集まっていた人々の眼前で、肌も露わな姿で逃げてきた娘が首を落とされるというショッキングな(しかし作者の筆にかかると決して悪趣味に感じられないのですが)幕開けから始まる本作。

 何故娘は殺されたのか、下手人は何者なのか、そして彼を犯行に駆り立てたものとは何なのか……そんな謎を追っていく主人公・多見次が、流しの鬼板師というのがまた興味をそそるところであります。
 鬼板師と書くとおどろおどろしいですが、要は鬼瓦職人のこと。しかし多見次が事件に興味を持ち、のめり込んでいく「動機」が、その彼の稼業、職人としての魂ゆえ……という、主人公の設定と、物語の構造とが密接に結びついているのには唸らされます。
(これはすぐには調べが付かなかったのですが、鬼板師は鬼を作るという稼業ゆえ、念仏が唱えられないという描写にも感心)

 そして彼の調べが進んでいくにつれて明らかになる真実からは、彼を含めた作中の登場人物の多くが、大なり小なり、心の中に「鬼」を隠していることが(しかし決してあからさまでも説教臭くもなく!)浮かび上がり――
 結末の捻りも加えて、何とも言えぬうそ寒さを感じさせてくれるのは、やはり作者の筆の冴えでしょう。個人的には作者の時代ものは短編の方により切れ味の鋭さを感じるのですが、本作はその好例であります。


 ちなみに本作は、岡っ引きがゴーストハンター役を務める変格捕物帖とも言うべき『幽鬼伝』の原型とも言える作品とのこと。
 なるほど、主人公や物語設定自体は大きく異なれど、怪異を探偵(役)が追う、あるいは探偵が追う事件の背後に怪異が潜むという構造自体は共通であります。

 こうしたスタイルの物語自体は、妖怪時代小説全盛の昨今ではさまで珍しいものではありませんが、そのいわば源流に近いものと言えるのではないか――というのはいささか大袈裟かもしれませんが、その融合の巧みさは、注目しておくべきではありますまいか。

 この点についてはまたいずれ、『幽鬼伝』紹介の際にも考えてみたいとは思っているところです。


『暗闇坂心中』(都筑道夫 戎光祥出版『変幻黄金鬼 幽鬼伝』所収) Amazon
変幻黄金鬼・幽鬼伝 (都筑道夫 時代小説コレクション 4)

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