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2015.01.13

『貸し物屋お庸 江戸娘、店主となる』 貸し物が生み出すモノと人のドラマ

 白泉社猫の手文庫の創刊第二弾の一つは、平谷美樹初の人情もの、貸し物屋の支店の店主となった少女を主人公とした、作者らしい個性に溢れた作品。創刊第一弾のアンソロジー『てのひら猫語り』に掲載された短編『貸し猫探し』の、本編とも言うべき作品であります。

 貸し物屋とは、今で言うレンタル屋のこと。借料を損料と言ったことから、損料屋とも言われる稼業です。
 レンタル屋といっても、何となく我々に想像できるような家財道具や紋付き袴などおろか、褌まで置いていたという江戸時代の貸し物屋の中でも「よろず貸し物 無い物はない」というある意味人を食った看板を掲げているのが、本作に登場する湊屋であります。

 この湊屋、貸し物屋としては看板の文句もあながち嘘ではないような大店で、客層も庶民から武家まで様々、初代は将軍の血筋などという噂もある、何ともユニークな店。
 そして当代の若き主人・清五郎は、長身の優男ながらどこか浮き世離れした男、店のことは下に任せ、暇さえあれば刀を振っているような変わり者であります。

 そんな湊屋が新たに開いた、両国広小路に面した支店の店主こそが本作の主人公、可愛らしくも男勝りの少女・お庸であった――というのが本作の基本設定。
 全四話で構成された本作の第一話は、このお庸が店主となるまでを描いた、いわば誕生編とでも言うべき内容であります。

 腕の良い大工の棟梁として何不自由なく暮らしていたものが、ある日突然、凶賊の手によって両親を奪われたお庸。
 奉行所の調べも当てにならず、思いあまった彼女は、一度であったことのある清五郎に、「仇討ちのための手」を貸して欲しいと訴えたのであります。

 その代価として清五郎が求めたのが、お庸が支店の店主となること。気まぐれとも見える清五郎の真意はともかく、密かに清五郎に憧れている彼女にとっては渡りに船のチャンス! というわけで、タイトル通りの店主誕生となるのであります。

 そして始まる物語は、貸し物屋に置かれた品物同様、なかなかに多様にして個性的なものばかり。
 開店前日に中間が高価な雛人形を借りにきたことから意外な事件に発展する第二話、穴の開いた笊が欲しいという奇妙な依頼の背後にある切ない人情を描く第三話、そして両親の新盆を前にお庸の実家で騒ぎを起こす少女の霊を巡るジェントルゴーストストーリーである第四話……

 いずれも時代小説デビュー以来、一つとして同じような作品のない、アイディアマンの作者らしいバラエティに富んだエピソード揃い。冒頭で作者初の人情ものと述べましたが、作者が人情ものを書けばこうなるのか、と唸らされた次第です。

 それにしても感心させられるのは、物語の舞台を、貸し物屋とした点であります。
 実を言えば、「モノ」を題材としているという点でいえば、作者には、モノが変化する付喪神を相手とする『修法師百夜まじない帖』があります。
 しかし貸し物屋にあるモノは、古きものであるだけでなく、人に貸され返ってくるもの、そこに人の存在が必然的に――それも一方向ではなく、双方向のコミュニケーションが――関わってくるものであります。

 その点において、本作はモノにまつわる、そして人の、人の情の絡むドラマがより発生しやすい構造であり、そしてそれこそが本作のバラエティに富んだ内容を支えていると申せましょう。


 そしてまた本作をさらに魅力的なものとしているのは、そのキャラクターの個性でありましょう。
 何しろ主人公のお庸からして、見かけは可愛いにもかかわらず一人称は「おいら」の男勝り、客と口げんかも日常茶飯事という荒くれ。それでいて清五郎にはメロメロ…というのが周囲にはバレバレというのも楽しく、ややもすると(そもそも彼女自身の背負ったもの自体がそうなのですが)重くなりがちな物語を明るくしてくれるのです。

 その他、上に述べた清五郎や、謎めいた用心棒の半蔵に底抜けのお人好しの(しかし折に触れて切れ者ぶりを見せる)手代・松之助、さらには昼行灯のようでいて底が知れない同心の熊野など、どのキャラクターもどこか必ずひねりのある造形で、彼らのやりとりを見ているだけでも楽しいのです。

 物語世界も、登場人物も、もちろん展開される物語も、この作品ならではの燦めきを持つ本作。まだシリーズは始まったばかりですが、これからの展開が待ちきれないところであります。


『貸し物屋お庸 江戸娘、店主となる』(平谷美樹 白泉社招き猫文庫) Amazon
貸し物屋お庸 江戸娘、店主となる (招き猫文庫 ひ 1-1)


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