« 『猫鳴小路のおそろし屋』(その二) 得体の知れぬその店の秘密は | トップページ | 『真田魂』連載開始 家族の物語と未知の世界の物語と »

2015.01.30

『亀戸妖犬伝』 少女と犬神が「境」を駆ける

 亀戸村の蓮光寺で育ったお聡は、幼い頃から常人には見えないものを見る力を持っていた。そのお聡が幼い頃から一緒に育った黒犬の阿刀丸は、弘法大師の霊験によって人語を解する犬神。お聡と阿刀丸は、人外の者が次々と引き起こす事件解決に奔走するのだが、そこにはある因縁が……

 相変わらず元気な廣済堂モノノケ文庫、その中でも妖怪ものは定番となっている感がありますが、この『亀戸妖犬伝』もその一つ。妖怪と交流することができる少女・お聡と犬神・阿刀丸のコンビが妖怪・怨霊の引き起こす事件に挑む物語です。

 亀戸といえば梅の名所・亀戸天神で知られた土地、個人的にも馴染みの深い土地ですが、江戸時代の亀戸はギリギリ朱引の内、町と郷の境にある地であります。

 そんな土地だから……と言っては申し訳ありませんが、亀戸が舞台の一つとなる物語はあっても、亀戸がメインとなる物語はかなり珍しい印象。それだけでも本作のユニークさが感じられます。
 物語の方も、そんな地理的側面を活かした内容なのが本作の特徴でしょう。

 第1話でお聡と阿刀丸が挑むことになるのは、村娘を攫ったという大猪ですし、第2話に登場するのは「葛の葉」を地で行くような狐女房(志願の狐)。どちらも地方色豊かであり、登場するのも農民・庶民であります。

 その一方で、第3話以降は亀戸を発端に江戸の町の部分に繋がっていく物語であり、登場するのも商人、そして武士に……と、境の地にある亀戸ならではの展開と言えるでしょう。

 そして「境」にあるのは、亀戸という土地だけではありません。お聡の恩人である寺の住職・浄観も、実は武士であった過去を持つ人物。
 ある事件から若くして身分を捨て、仏道に入った彼は、しかし未だに過去と今の間で揺れる人物。物語の後半は、ある意味彼の物語と言える展開となるのですが、それは彼の中の「境」を描く物語とも言えるでしょう。


 こうした舞台・構造の面白さに加え、妖怪ものとして見ても、第3話の河童の扱いなどなかなかユニークであり、もちろん主人公コンビのやりとりも微笑ましい本作。
 そうした点は水準以上ではあるのですが、実は個人的には今ひとつ乗れなかった、というのが正直なところ。

 それは一つには、本作の地の文がト書き的で、どこか無味乾燥に感じられたという点があるのですが、妖怪小説として気になってしまったのは、妖怪や幽霊といったものが、あまりに便利な装置として使われているような印象がある点です。

 不可思議な現象はもちろんのこと、表には現れないような人の所業といったものの謎・秘密をいかに顕していくか、いかに描いていくかというのは、これは妖怪ものに留まらず物語の一つの醍醐味であります。

 本作はその点で、妖怪があっさりと核心の情報を持ってきたり、教えてくれたりすることが多すぎるため、その部分が薄味になっている印象は否めません。
(特に今は幽霊となったお聡の実の母は便利すぎる存在)

 そのために物語やキャラクターへの感情移入が削がれている印象があり……それは非常に勿体ないお話だと感じるのであります。
(ある意味それは、それ以外の部分がそれなりによく出来ているからこその印象なのかもしれませんが……)


『亀戸妖犬伝』(五十嵐ひろみ 廣済堂モノノケ文庫) Amazon
亀戸妖犬伝 (廣済堂モノノケ文庫)

|

« 『猫鳴小路のおそろし屋』(その二) 得体の知れぬその店の秘密は | トップページ | 『真田魂』連載開始 家族の物語と未知の世界の物語と »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/61046263

この記事へのトラックバック一覧です: 『亀戸妖犬伝』 少女と犬神が「境」を駆ける:

« 『猫鳴小路のおそろし屋』(その二) 得体の知れぬその店の秘密は | トップページ | 『真田魂』連載開始 家族の物語と未知の世界の物語と »