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2015.01.27

通し狂言『南総里見八犬伝』 通しで観る八犬伝の楽しさ、難しさ

 古典芸能好きと言いつつしばらくご無沙汰していて大変お恥ずかしいのですが、久しぶりに歌舞伎に行ってきました。国立劇場の新春歌舞伎、通し狂言『南総里見八犬伝』――言うまでもなくあの曲亭馬琴の原作を、発端から大詰めまで五幕九場で歌舞伎化したものであります。

 今回の通し狂言のベースとなったのは、昭和22年に渥美清太郎が脚色したもの。今回は当代の尾上菊五郎が犬山道節を演じ、実質的な物語の中心人物となっております。
 そんな今回の構成は以下のとおり――
発 端(安房)富山山中の場
序 幕(武蔵)大塚村蟇六内の場
/本郷円塚山の場
二幕目(下総)滸我足利成氏館の場/同 芳流閣の場
三幕目(下総)行徳古那屋裏手の場
四幕目(武蔵)馬加大記館対牛楼の場
大 詰(上野)白井城下の場/(武蔵)扇谷定正居城の場

 初演時は通しで5時間程度だったようですが、今回は正味2時間半程度、初演にあった荒芽山のくだり(犬山道節の乳母の家を舞台に、五犬士が集合離散する場面)がカットされ、その代わり、ほぼ百年ぶりに上演されるという道節の刀売りのくだりが加えられた形となっております。

 さて、こういう時に、まず原作との異同が気になってしまうのが八犬伝ファンの悪いところでありますが、しかしあの長大な原作をどのように取捨選択してみせたのか、というのはやはり大事な点でしょう……などと言い訳しつつ主立った点を挙げてみましょう。

・里見家が扇谷定正に滅ぼされている
 原作では存続している里見家が、序幕の時点で既に滅んでいます。この点は最大の相違点ですが、八犬士まわりの比較的入り組んだ設定を、お家再興のために定正を倒す、という構図に整理したのは理解できます。

・丶大法師、玉梓、船虫が登場しない
 八犬伝ものには必ずと言っていいくらい登場するこの三人が登場しないのは珍しい(丶大の場合、伏姫は自決するので出番なし)。しかしそれでも話が成り立つのには感心です。

・大角、親兵衛の出番がほとんどない
 大角は化け猫のくだりが省略され(刀売りとのトレードオフのようですが)、古那屋のくだりが信乃・現八・小文吾が義兄弟の誓いを交わす内容に変更されているため親兵衛が登場せず……というわけで、二人の登場は実質ラストの八犬士勢ぞろいに駆けつけるような扱いとなっています。

 さて、それで内容の方はといえば、まず感じたのは、特に発端・序幕のテンポの良さ。この辺りは、どんな八犬伝ものでも(ごく少数の例外を除けば)必ず描かれるくだりですが、それだけに何度も見ていると、もう少しどうにかならないか、と思ってしまうのが正直なところです。それをこの通し狂言では非常にテンポよく(時間にして一時間強)で描いてしまうのは好印象であります。

 また何よりも印象に残ったのは、芳流閣の場で、通常使われる屋根のほかにもう一つ、より高い屋根が用意されており、回り舞台を使って上下左右立体的な大立ち回りを見せていただけたのは、これはもう実際に舞台を観ることの醍醐味といいますか、理屈抜きの楽しさなのであります。
 その他、ド派手な道節の火術や、信乃が桜の枝を手にした腰元たちと立ち回りを見せる花軍(はないくさ)など、いかにも新春らしい賑やかな楽しさがあったのですが……

 しかし、通しで観ると、やはり無理があった部分は否めない、とは感じます。

 駆け足になってしまったのは仕方がないとしても、思った以上に犬士が揃っての場面が少ないというのは、やはり寂しい限り。
 特に大詰めの八犬士勢ぞろいの場面が、思った以上にあっけなく、出で立ち的にも皆鎧姿で個性が薄く、盛り上がりに欠けたのは残念でありました。
 実は序幕のラストにも、イメージシーン的に八犬士が勢ぞろいいたします。こちらの衣装は各人の背景を踏まえたようなもので(特に親兵衛が子犬の皮を被って登場するのは面白い)良かったのですが……

 特に刀売りの場面は、思っていた以上に淡々とした場で、道節の菊五郎を立てるためとはいえ、ほかの場でもよかったのではないか、とは感じてしまったところです。


 などとうるさいことを述べましたが、八犬士が定正を追いつめての大団円の賑やかさを観てしまうと、新春だしあまり野暮なことを言っても……と思ってしまうのは、これも八犬伝ファンの宿痾でもありましょうか。
 やはりお馴染みのキャラクターたちが、目の前で活き活きと動き回るのを観るのは格別のものですから……


関連サイト
 国立劇場公式

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BSで放送ありますね

投稿: 株式会社フィクション | 2015.01.30 02:36

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