『逢魔が山』 少年時代の冒険の怖さと高揚と
小さな山村で暮らす秀太と鶴吉の兄弟は、ある晩突然村に押し入ってきた雑兵たちに拉致されてしまう。同じように拉致された三人の子供たちとともに夜の道を連行される秀太と鶴吉は、隙を突いて逃げ出すものの、方向感覚を失い、もののけが棲むという禁断の「逢魔が山」に迷い込んでしまう……
犬飼六岐の新刊『逢魔が山』は、作者の作品の中でも、かなりユニークな部類に入る作品でしょう。主人公は十代前半の少年……というより子供たち、彼らの冒険行を描く物語であります。
舞台は戦国時代の四国……ということもあまり意味を持たないような、小さな世界で暮らしてきた山村の少年・秀太が本作の主人公。
生まれつき目の見えない弟・鶴吉とともに、変わらぬ平和な暮らしを送ってきた彼の日常は、ある晩乱入してきた雑兵たちによって破られることになります。
何やら秀太たちと同年代の子供を探しているらしい雑兵たちに捕まえられた二人は、同じ村の松平・段蔵・喜助、そして村長の家に匿われていた見知らぬ子供二人とともに、何処かへ連行されることに。
謎の子供たちが反抗した隙に逃げ出した秀太たち五人ですが、夜の森を無我夢中で逃げ出した彼らが迷い込んだのは、魔所として知られる「逢魔が山」。次々と現れる奇怪な現象に戸惑いながらも、力を合わせて必死に村に帰ろうとする子供たち……
という本作を読んでいた時に私がまず感じたのは、「懐かしさ」でありました。
本作の主人公たちと同じくらいの子供であったこと、日常から少しでも踏み出すことは、大きな冒険に感じられました。見知らぬ町、馴染みのない時間……そんな世界に足を踏み入れた時の何とも言えぬ恐ろしさと、それと背中合わせの高揚感が、本作にはあります。
物語的には、非常にシンプルな内容であります。少年たちが見知らぬ森を、山をさまよい、家に帰ろうとする――謎の子供たちの存在や、追ってくる雑兵たちという要素もありますが、本作の内容はほぼ「これ」のみと言ってよいでしょう。
そんなシンプルな物語でも最後まで惹きつけられるのは、その子供の頃の気持ちを思い出させてくれるような展開と、それを子供だましで終わらせない丹念な描写によります。
日の光の下で、落ち着いてみればなんということもないモノであっても、夜の闇の中で、命がけの状況で出会った場合には全く異なる姿を見せる――当たり前に思えますが、それを文章で描くことがどれだけ難しいことか。
しかしながら、最後の最後までシンプルなままなのには、少々困惑させられた……というのが正直なところではあります。
確かに描くべきは描かれたというべきですが、それで読者が満足できるかはまた別でありましょう。
少年たちの短い、しかし濃密な冒険行と、その中での彼らの小さな成長を描いた本作の魅力は十分に感じられたものの、その先にあったものはあまりに呆気なく、物語の締めくくりとしても(これ以外にはないことはわかるものの)物足りない。
もう少し、背後にある物語を想像させる(想像させる物語を作り上げる)形になっていれば……と勿体なく感じたところであります。
あるいは対象や媒体等が異なれば全く異なる印象となった作品だとは思うのですが――
『逢魔が山』(犬飼六岐 光文社) Amazon

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