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2015.02.03

『未来記の番人』 予言の書争奪戦の中に浮かぶ救いの姿

 幼い頃から千里眼の異能を持つ南光坊天海直属の忍び・千里丸は、幼なじみであり今は上忍の士郎左とともに、大坂四天王寺にに隠された聖徳太子の予言書「未来記」奪取を命じられる。そこで不思議な力を持つ少女・紅羽と出会った千里丸。異能を持つ人々の存在の意味とは、そして未来記の正体とは……

 大坂を舞台に、したたかな商人たちの姿や、爽やかな青春群像を描いてきた築山桂の久々の新作は、文庫本にして500ページ弱というかなりの大部。そしてその内容も、それにふさわしく充実の一言であります。

 タイトルの未来記とは、いわゆる「太子未来記」――聖徳太子が記したという予言書。四天王寺に安置されているというそれは、平安時代に発見されて以来、様々な時代に――それも南北朝の争いや応仁の乱等、争乱の時に人々の口に上る書物であります。
 かの楠正成も被覧したと言われるその未来記の正体、そして歴史の中で隠されてきた理由が、本作の中核となります。

 本作の主人公・千里丸は、その未来記奪取を命じられて南光坊天海から派遣された忍び。時あたかも島原の乱の終結直後、切支丹や異国人による乱の再発を恐れた幕府は、楠正成に軍神の力を与えた未来記の力を欲したのであります。
 千里丸は、かつては兄貴分であり、今は反りの合わない上忍である士郎左とともに、四天王寺に派遣されたのですが……

 しかし四天王寺側はこれを拒否、聖徳太子の魂が化身したと言われる白い鷹に追い散らされた千里丸たちは一端退散することに。
 そして町で暴漢に襲われた大商人・住友理兵衛を助けた千里丸は、理兵衛に誘われて赴いた屋敷で、一人の美少女・紅羽と出会います。彼女こそは風を自在に操る異能の持ち主であり、そして千里丸が初めて出会う「同類」だったのであります。

 南蛮絞りと言われる銅精錬の秘法を知る理兵衛の狙いは、紅羽は何故理兵衛の下にいるのか。千里丸の前に現れた異能の者に詳しい牢人・波多野久遠の正体は。紅羽と四天王寺、そして未来記の関係は――


 このように、伝奇ものとしての興趣に満ち満ちた本作ですが、しかし本作の魅力はそれにとどまりません。
 その最大の魅力は、未来記争奪戦を通じて浮かび上がる、人々の陰影に富んだ素顔であると――私はそう感じます。

 本作には上に述べたとおり、生まれも立場も異なる、個性的な登場人物たちが数多く登場いたします。しかし彼らに共通するのは、誰もが他人に、時には自分自身にすら隠した顔を持つことでしょう。

 その最たるものが、主人公たる千里丸であります。千里眼の異能により幼い頃から差別され、同じような境遇の子供たちが集まる忍びの里に安住の地を見出したと思えば、大人たちが求めたのは千里丸の異能だけであり、仲間たちともあまりにも無惨に引き裂かれる。
 その衝撃ゆえか、一時期千里眼の力を失ってしまった千里丸。今は回復したものの、それを隠し、彼は無能を装って生きているのであります(そんな過去を持つからこそ、弱者や女性が傷つくのを見過ごしにできない、という自然な主人公造形がとても良い)。

 しかし未来記を巡る戦いの中で、千里丸をはじめ、登場人物たちの隠した顔が次々と明かされ、暴き出されていくことになります。
 時に自分自身すら信じられない、そんな中で救いとなるものはあるのか? 
 その問いかけに対し本作が示すのは、愛や信頼といった、個人のポジティブな想いの繋がりであると、私には感じられます。そして受け継がれてきたそれこそが「不滅の魂」と呼ぶべきものとなるのではないか……と。


 異能者が歴史を動かしてきたという設定の物語は少なくありません。そうした作品は、半ば必然的に俯瞰的な視点を持つに至る(例えば、天海と異能者という点で連想される半村良『産霊山秘録』など)ことになります。
 それに対し、あくまでも歴史の激流の中を苦しみながらも一歩一歩歩む個人の視点から、人の生きることの意味を描いてみせた本作を、私は大いに好ましく感じた次第です。


 ちなみに本作の表紙絵を担当したのはスカイエマ。最近は時代ものの表紙を担当することが少なくない氏ですが、本作の表紙は、その中でもベストワークと言えるのではありますまいか。

『未来記の番人』(築山桂 PHP文芸文庫) Amazon
未来記の番人 (PHP文芸文庫)

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