『深川霊感三人娘』 名手の原点回帰にして新たなる出発点
美女/美少女三人組が悪を向こうに回して大暴れという「三人娘」ものとも言うべき作品は、洋の東西を問わずエンターテイメントの世界には存在しますが、そこに新しい作品が加わりました。短編ホラーの名手・井上雅彦が、常人離れした力を持つ三人娘の活躍を描く、本作『深川霊感三人娘』であります。
時は文政年間、江戸深川で噂の三人娘――その料理で通を唸らせる料亭の娘・男満。男も敵わぬ剣の達人である若衆姿のお倫。人もそれ以外も手配するという口入れ屋の孫娘・お涼。
彼女たちにはそれぞれ、普通の人間にはない特殊な能力がありました。
お満は、己の体から魂を自在に飛ばすことができる幽体離脱。お倫は、これから起きる光景を事前に知ることができる未来視。そしてお涼は、様々な妖怪たちと友達であり、彼らを自在に操る妖遣い――
いずれも余人に知られれば引かれそうな能力ながら、彼女たちにとっては、お互いが頼もしい力を持つ親友であり仲間。かくて彼女たちは、その力を活かして、深川を騒がす悪人たちを退治していく……という趣向であります。
いわばアバンタイトルである冒頭で、深川芸者を暴行した不良旗本たちを一網打尽にしたのを皮切りに、卑劣な手段で商人を苦しめる悪侍を、太火から生き延びた幼い兄妹を狙う凶刃を、逆恨みから三人娘を狙う殺し屋を、そして若年寄暗殺を企む魔の手を、彼女たちは次々と叩き潰していくのであります。
と、そんな本作で注目すべきは、作者が、冒頭に述べたとおり井上雅彦であることであります。
井上雅彦といえば、端正な本格ホラーの書き手であると同時に、伝説のホラーアンソロジー『異形コレクション』の編者。そんな人物が、妖怪時代小説を!?
などと驚いたりは、私はいたしません。なんとなれば作者のデビュー作は、若き日のエイブラハム・ヴァン・ヘルシングが来日し、シーボルトと共に奇怪な吸血魔とともに対決する『ヤング・ヴァン・ヘルシング』シリーズだったのですから。
(ちなみにこのシリーズと本作は、ほぼ同時期の物語。ということは……)
もちろん本格時代伝奇ホラーと、文庫書き下ろし時代小説という違いはありますが、いわば本作は、作者にとっては一種の原点回帰なのであります。
そんな本作がただの作品であるはずもなく、三人娘それぞれの能力――これ自体は決して過去の作品に絶無のアイディアというわけではないにもかかわらず――の見せ方、そしてそれを活かした物語展開は、巧みの一言。
何よりも、各エピソードの終盤に用意され、物語に一ひねり加えてみせる仕掛けが楽しい。特に、お満の前に現れたろくろ首の正体に「なるほど!」と唸らされる第二話、お涼の夢の中に少年時代の姿が現れた人物の正体に感心そしてニッコリの第四話と、このあたりの冴えは、作者ならではのものでありましょう。
そして、そんな物語の根底に流れるのは、人と人との善き絆――親子の、兄妹の、夫婦の、いや血の繋がりはなくともお互いを信じ支え合う心と心というのも嬉しい。
「深川」ときたら「人情」というのは、これは時代小説では合い言葉のようなもの(?)ですが、しかし異能力者や妖怪たちが入り乱れる物語であっても、いやそんな物語だからこそ、その絆はより印象的なのであり――特に主人公サイドの登場人物たちが、皆嫌味なく好人物揃いなのが何とも気持ち良いのです。
その一方で、時代小説としてのスタイルを守ろうという意識が強すぎたのか、各エピソードの(特に終盤の)展開が毎回似たように感じられる似てしまっているのは気になります。
また何よりも、毎回悪人が(時にそれ以外の人間も)自分の企みを長々と台詞で説明してしまうのは、個人的には大きくひっかかるところではありますが……そこは今後の解消に期待するといたしましょう。
名手の原点回帰にして新たなる出発点である本作には、それだけの魅力があることは間違いないのですから……
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