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2015.02.08

『殺戮の鬼剣 鞍馬天狗』 再び甦る復讐の天狗剣

 新選組を狙い、次々と凶刃を振るう仮面の怪人・鞍馬天狗こと倉田典膳。彼と出会った角兵衛獅子の少年・杉作は、鞍馬天狗と新選組の暗闘に巻き込まれる。新選組に執拗に怒りを燃やす天狗の正体は、そして彼の超人的な力の源とは。その背後には、歴史の陰で暗躍してきた者たちの陰が……

 コンビニを中心に流通する廉価版コミックの中では、単行本化されなかった作品、単行本が未完のままの作品が刊行されることもあり、見逃せない存在であります。
 その廉価版コミックの形で、今回刊行された『殺戮の鬼剣 鞍馬天狗』も、そうして復活した作品。「コミック乱ツインズ」誌で連載され単行本第1巻が刊行、その後連載は完結したものの、単行本の続きは刊行されなかった、いわば幻の作品であります。

 この漫画版鞍馬天狗のベースとなっているのは、原作小説の中でも間違いなく最も有名な鞍馬天狗ものであろう『角兵衛獅子』。
 角兵衛獅子の芸人として辛い毎日を送っていた働いていた杉作少年が、覆面の剣士・鞍馬天狗=倉田典膳と出会い、尊皇・佐幕両派の争奪戦に巻き込まれる……
 鞍馬天狗が他のメディアで扱われる際には真っ先に題材となる原作ですが、しかし本作はその原作をベースとしつつも、とんでもない次元に飛翔する作品であります。

 何しろ本作の鞍馬天狗は、白昼堂々新選組の屯所に乱入して隊士を血祭りに上げる凶剣士。(特に初期は)敵には容赦しない鞍馬天狗とはいえ、ここまで血腥いキャラクターとされているのは珍しい。
 「殺戮の鬼剣」というおどろおどろしいタイトル、「最凶作家が放つ残酷凄絶時代劇コミック」という表紙の煽り文句も、あながち過剰ではない血みどろぶりであります。

 しかし鞍馬天狗が新選組に対して過剰な、いや異常な敵意を燃やすのも、本作においては不思議ではありません。というのも本作の鞍馬天狗、倉田典膳と名乗る男の正体は、かつて「天狗」の名を冠した勤王集団に参加し、そして後に曲がりなりにも同志であった新選組の手で謀殺されたあの男なのですから――

 それだけでもとんでもないアイディアですが、しかし本作はそれに留まりません。確かに一度は死んだはずの彼を救い、そしてかつてを遙かに上回る力を与えた存在。
 それこそは、遙かな昔から聖徳太子の未来記を奉じ、救世主の誕生を待ち望む一派だったのであります。

 彼らの手で蘇生された鞍馬天狗。しかし彼らの魔手が杉作に及ばんとした時、天狗は彼らと袂を分かつこととなります。そしてその天狗に対する刺客として選ばれたのは、天才を謳われながらも病魔に犯され、死を目前としたあの剣士!
 かくて超常の力を借り、死から甦った天狗と、死を繋いだ鬼と、二人の激突が――伝奇者にとってはたまらない物語が展開することとなります。


 さて、冒頭に述べたとおり以前唯一単行本化された第1巻は、内容的には導入部。いわば真の物語とも言うべきそれ以降は、今回はじめてまとめて読めるようになり、大いに楽しませていただいたのですが……
 しかしそこで有り難いと心から思う一方で、一言うるさいことを言いたくなってしまうのが半可通のたちの悪さであります。

 そう、通しでこの物語を読んでみると浮かぶ疑問があります。本作を『鞍馬天狗』として描く意味がどれだけあったのか、と――

 確かに、先に述べたとおり、本作の鞍馬天狗の正体は、新選組を宿敵とするに相応しい人物であります。意外性と必然性がある、見事なチョイスであります。しかし、「鞍馬天狗」というキャラクターが、復讐のために過剰な殺戮を行う人物であるかどうか。そしてそもそも彼はいかなる人物であったか――

 登場当初の過激な勤王志士ぶりはともかく、発表時期が後になるに連れ、目的による手段の正当化を否定し、普遍的な自由のために戦う人物となっていった鞍馬天狗の姿を思えば、やはり本作の天狗像は、違和感は拭えません。
 一つの作品として面白いだけに、本作の主人公の行動原理がそれなりに納得できるだけに、鞍馬天狗でなくとも良かったのではないかなあ……という、本当に身も蓋もない想いも(少しだけ)浮かぶのであります。

 よく知られているようでいて、実はあまりその実像が(おそらくは原作が書き続けられていた頃から)知られていないヒーローである鞍馬天狗。
 そんな彼を描く切り口として、非常に新鮮なものであることは大いに感心しつつも、しかし……そんなことも感じてしまった、というのが正直なところなのです。
(いや、本作のラストにおいて、真に鞍馬天狗が誕生したと解すべきというのは百も承知なのですが)


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