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2015.02.11

『南蛮服と火縄銃』 将軍義輝を護る異能の少女たち

 二人の従者とともに日本にやってきたイエズス会の若き修道士ミゲルの目的――それは布教ではなく、異教の神々の血統である「因子(ティラン)」を持つ者の存在の確認だった。未来を知る力を持つ鉄砲使いの少女・かがせは、彼らの力を借りて未来を――将軍義輝暗殺の歴史を変えようとするのだが……

 今頃の紹介で大変恐縮ですが、戦国時代を舞台に異能力者のバトルを展開する、時代ライトノベルの快作です。
 タイトルは『南蛮服と火縄銃』――どう考えてもあの作品のパロディであり、また作者がこの前に発表した作品を考えれば、何やらコミカルな内容を想像してしまいますが、さにあらず、極めてシリアスな、真っ正面からの骨太な時代ものであります。

 時は永禄6年、豪商の娘であり、鉄砲を作り、使うことにかけては屈指の腕を持つ少女・かがせは、暴徒に襲われつつもこれを軽々と撃退した若き修道士ミゲルの一行と出会います。
 未来を表示する謎の道具「破戸宇子(はとうす)」の力で未来を知ることができるかがせは、この地で彼らが襲撃されることを知り、彼らと出会うべくこの地にやってきたのであります。

 かがせが求めるもの――それはミゲルたちがキリスト教徒が「因子(ティラン)」と呼ぶ、異教の神々の血を引く者「因子もち(ティラノス)」に発現する力。
 ミゲルと二人の従者、ソールディースとマグ=メイは、皆それぞれ「因子」を――ミゲルは未来視を、トールの子孫たるソールディースは雷を操る力を、取り替え子としてダーナ神族に育てられたマグ=メイは魔法を――持っていたのです。

 かがせの目的は、彼らの強大な力を借り、破戸宇子に表示された予知、将軍義輝が暗殺されるという未来を変えること。そしてそれはミゲルが視て、変えようとしていたある恐るべき未来を変えることと繋がっていたのでありました。

 今日に出て義輝と対面した一行の前に現れるのは、霜台こと松永久秀と、彼が連れたもう一人の、南洋からやって来た因子もち。そして奇怪な力を振るう、金色の目の怪人たち――


 そんな本作を読んでまず感じるのは、世界観がしっかりと確立されている点であります。

 ファンタジー世界ではなく、確かに過去に存在した(かもしれない)世界において、伊能力者たちを活躍させる。そのために本作が選んだ手段ともいうべき「因子もち」が、世界中の様々な神々の末裔という設定自体は、さほど珍しいものではないかもしれません。

 しかし本作においては、その存在を当時のキリスト教界が受け止め、ある程度許容することを、キリスト教の教義に当てはめて説明する等の趣向により、しっかりとした現実感、存在感を与えているのには感心させられます。
(この辺り、ライターとしても活動してきた作者の経験が活かされているやにも感じられます)

 そしてもう一つ感心させられたのは、キャラクターの関係性の設定であります。
 本作の主人公であるかがせ、そしてミゲルと二人の従者は、一応は同じ義輝守護のために戦いつつも、しかし目的が完全に一致しているわけではありません。
 特にソールディースの戦う理由は、自分がミゲルの下で活躍することで家族の身分を保証することでありますし、マグ=メイの「親」であるダーナ神族は、キリスト教界と同盟関係を結びつつも一体ではない。

 それぞれに思惑を秘め、利害関係で繋がりながらも、しかしそれでもなお、一種の友情で結ばれる――そんな彼女たちの関係性は、むしろ完全に一枚岩として描かれるよりもリアルかつ魅力的に感じられるのです。

 また、時代ものとして見れば、本作のシチュエーションでは、普通は単純な悪役として描かれそうな久秀をそうは描かず(もちろん単純な善人でもなく)、複雑な内面を描いて見せたのもいい。
 代わって(?)悪役となる人物も、こうきたか、と思わせるチョイスなのであります。


 タイトルに一発ネタ以上の意味が感じられないこと、考証面の描写が少々多く感じられること等、気になる点はありますが、時代ものとしてきっちり楽しめる本作。
 続編へのヒキもきっちり用意されていることでもあり、彼女たちが本当に歴史を変えることができるのか――その「未来」を見てみたいと、強く感じます。


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