『幻妖異聞 しろがねの君』 人ならざるものを通じて人の情を描く奇譚集
『愛しの焔 ゆめまぼろしのごとく』など、戦国時代を舞台にした時代ロマンスを中心に活躍しているもとむらえりが、平安時代を舞台とした作品3編を集めた作品集であります。『幻妖異聞』の角書にふさわしく、いずれも鬼や妖、幽霊など人ならざる者を題材とした、なかなかにユニーク作品集です。
表題作の『しろがねの君』は、作者の初作品のリメイク。絶世の美女でありながらも、白金の面をかぶったかのように無表情だという謎の姫君・白金姫にまつわる奇譚であります。
京のはずれの尼寺に独り暮らす白金姫の素顔を人目見んと忍び込んできた山伏姿の少年・然丸。その然丸が見た姫の素顔とはなんと(これは物語開始早々に判明することなので書いてしまいますが)男!
実は姫はこの寺にはおらず、彼女に幼い頃から育てられてきた孤児の美青年・銀が、彼女の身代わりとなっていたのであります。
あまりのことに呆れながらも銀と親交を深めていく然丸。しかし然丸にもある秘密がありました。
本物の姫はどこにいるのか、そして姫の前に現れるという「鬼」とは――
と、登場人物がそれぞれに秘密を抱え、それが巨大な因縁として絡み合い、一つの物語を織りなしていく本作。その秘密そのものも面白いのですが(特に然丸の抱えるそれが最初に明かされた場面にはちょっと不意を突かれました)、何よりも本作の大きな魅力は、その中に存在するある種捻れた男女の関係性と感じます。
これは物語の本質に関わる内容ゆえはっきりと書けないのがもどかしいのですが、本作で描かれる二つの捻れは、ストレートに描くのが難しい部分があります。
それをこうした一種のファンタジーとして描くのは一つの手法であり、そしてそれを可能とするのは少女漫画というメディアならではのものかもしれない……と感じた次第です。
その他、『東風吹かば』は、若き日の菅原道真に拾われた少年・明日摩と、紅梅の精・癒扶の三者を描く物語です。
何ゆえか生まれつき年を取らない明日摩の目を通じた道真伝とも言うべき内容ですが、ある伝説を題材に、結末で一つの秘密が明かされる構成はなかなか面白いものの、作中のタイムスパンが長いために物語が間延びして見える(さらに言えば明日摩があまりに無力に見えすぎる)のが残念なところ。
本作は前後編なのですが、そこまでの分量が必要であったか……という印象があります。
また、もう一作の『あかつき綴り』は、創作マニアの女官が、結婚を間近に控えたある日に青年の生霊と出会って……という短編。
物語作者の喜びと恐れを、変形のボーイミーツガールの中で描くのはそれなりに面白い趣向ですが、生霊の正体があまりにもわかりやすいために結末も予想できてしまったのは、厳しいところでありました。
……と、表題作以外はずいぶん厳しい評価となってしまい恐縮ですが、人ならざるものを通じて人の情を描くという方向性は大いに評価できるものの、表題作も含めて、アイディアの面白さと、物語構成の間にアンバランスな部分はあったかな、という印象を受けたのは正直なところではあります。
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