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2015.03.19

『ヴィラネス 真伝・寛永御前試合』第1巻 艶やかに、異常に駆ける外道剣士たち

 近年、とみに時代ものづいている夢枕獏が『小説現代』に連載中の『真伝・寛永御前試合』。新解釈で寛永御前試合に臨む武芸者たちを描くこの作品が、早くも漫画化されました。しかし原作がくせ者であるのと同様、この漫画版もまたくせ者であります。何しろ武芸者たちは「女」なのですから……

 寛永御前試合は、最近では題材とする作品も多くありませんが、簡単に言ってしまえば、江戸時代前期の武芸者オールスター戦とも言うべきイベントです。

 勝海舟の『陸軍歴史』によれば寛永9年、時の将軍家光の御前で開催された十一番の武芸試合に参加した二十二人の武芸者は、宮本伊織、荒木又右衛門、柳生宗冬、関口柔心、果ては大久保彦左衛門から伊達政宗まで……
 もちろんどこまでが真実か怪しい部分もありますが、この豪華すぎる大戦は講談というメディアにおいてさらにパワーアップ、荒唐無稽ではあるものの、時代を超えて存在するであろう達人vs達人の異種・異流派対決を望む人々の心を捉えていったのであります。

 と、本作の原作は、そんな伝説の寛永御前試合に出場した(するであろう)武芸者たちが、剣聖・剣豪などではなく、全員強さのためなら手段を選ばぬ外道だった、という構想で描かれる連作。厭な暴力描写では屈指の作者だけあって、読んでいて痛い描写が続出する、一種の怪作であります。

 さて、それを漫画化した本作でありますが――タイトルが「ヴィラン(悪役・悪人)」ではなく女性を表す接尾辞が付された「ヴィラネス」であることから察せられるように、原作の外道たちが女性として登場する、という仰天の展開。
 女体化・女性化自体は今日日さまで珍しい趣向ではありませんが、しかしそれが派手に人体損壊バトルを繰り広げる連中を題材にしたというのは、やはりユニークと言うべきではありましょう。
(ちなみに原作者の作品で漫画で女性化というと、九門鳳架を思い出しますが……)

 この第1巻で登場するのは宮本弁之助……後の宮本武蔵と、その彼の「師」となる秋山虎之介。

 言うまでもなくどちらも女性ですが、よく言えばボーイッシュな弁之助は手にした棍棒で相手が息絶えるまで撲り続ける野獣めいたスタイル。そして虎之介は妖艶な美女でありながら、殺人狂的側面を持ち、試合に当たっては卑怯な手段を用いることも躊躇わない――
 なるほど、どちらも外道であります。

 物語的にはまだまだ序盤といったところで、有馬喜兵衛を惨殺した後、旅を続ける弁之助が虎之介に弟子入りし、彼女に従ってある山に足を踏み入れ、山賊たちの群れを鏖殺する……という展開。
 そのため、物語的にはなかなか評価しづらいところですが、(特に序盤は)絵柄的には粗い部分もあるものの、勢いのある画風はなかなか本作のムードにマッチしていると感じます。
(漫画というより挿絵的に見えるコマは善し悪しかとは思いますが)

 そして本作の最大の特徴である女性化ですが――正直に申し上げれば、全員女性、と言いつつ、この第1巻に登場する外道はまだ2人、それ以外のキャラクター(やられ役)は普通に男性のため、さまで違和感はないという印象。
 厳しいことを言ってしまえば、漫画の世界では彼女たちのように常識外れの強さを発揮する女性たちは珍しくないのですから。

 しかしその一方で、彼女のようなそれぞれに美しいキャラクターが残虐ファイトを繰り広げることで、「外道」としての異常性が強まるとともに、その行為にどこか艶やかさが加わり、良い意味で嫌悪感が薄れるという、二重の効果を上げているのもまた事実。
 おそらくはこれこそが本作の趣向の狙ったところでありましょうし、それはある程度成功している……と感じます。


 気になるのは、このペースでいくと原作に早々に追いついてしまいそうなことですが――そうなったらそうなったで、この漫画版独自の世界に踏み込むのも面白いのでは、というのは無責任かもしれませんが、正直な感想でもあります。


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