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2015.03.01

『アンゴルモア 元寇合戦記』第1巻 「戦争」に埋もれぬ主人公の戦い始まる

 文永11年、元御家人の朽井迅三郎は、流刑先の対馬で意外な歓待を受ける。対馬には元軍が接近中であり、彼らは戦力として期待されたのだ。果たして対馬に上陸した元軍を迎撃する対馬の武士たちだが、全く異なる武器と戦法を持つ元軍に苦戦を強いられる。果たして朽井は対馬を守ることができるのか……

 何やら非常に高い前評判とユニークなタイトル、そして何よりも題材的に気になっておりました『アンゴルモア 元寇合戦記』の第1巻であります。

 タイトルの「アンゴルモア」とは、我々の世代には懐かしい、ノストラダムスの予言にも登場する恐怖の大王ですが、その名は、モンゴルに由来するという説もあるとか。
 そしてそのモンゴル――当時世界最強を誇り、当時の皇帝・フビライの拡張策の下、東西に版図を広げていた元が、文永・弘安と二度にわたり日本に来襲した元寇は、これまでも数々の物語の題材となってきたところであります。
 本作は、その中でも緒戦であり――そして初めて元軍の上陸を受けた――対馬を舞台として始まります。

 それまでも海の向こうの民と交流を持ってきた彼らをしても、ほとんど異星人とのファーストコンタクトのような元軍との接触。そしてそして始まる武と武のぶつかり合い――
 本作の面白さの一つ目は、これらのリアリティに富んだ描写でありましょう。特に合戦シーンの描写などは、最近ネット上でも話題となった弓の扱い方もかなりしっかりと描いているのではないか……というのは素人の印象ですが、いずれにせよ、このリアリティが、本作の行き詰まるような緊迫感に大きく貢献していることは間違いありますまい。

 しかし、本作の魅力は、それに留まらない――むしろ他の点にあるように感じられます
 日本史上(少なくともこの時点までは)数少ない外敵との「戦争」であった元寇。
 この「戦争」を描く方法の一つは、俯瞰的な視点で選局の推移を描くことでしょう。あるいは、戦に巻き込まれた、無力な個人の目を通じて、その惨禍を描くという選択肢もあるかもしれません。

 しかし本作は、そのどちらも取りません。いや正確には、その双方を描きつつ、その最中にあるものを描くと言えるでしょう。
 それは主人公・迅三郎の存在――巨大な力と力のぶつかり合いの最中で、埋没することも打ちのめされることもなく、己の存在を確立してみせる迅三郎の姿なのであります。

 もちろん、名もない人間個人が、巨大な戦力と戦力同士のぶつかり合いの中で存在感を見せることは、本来であればあり得ないことでしょう。
 それを可能とするとすれば、シチュエーション設定に工夫すること――すなわち、正規軍が機能しない、あるいは敗れた状況の中で、ごく少数の人間たちが戦わざるを得ない(それでいて彼らに逆転の目がある)状況……本作は、それを巧みに設定している、少なくともしようとしていると感じられます。

 さらにそのシチュエーション作りを支えるのが、歴史ものとしてのガジェットでありましょう。
 迅三郎の(さらには敵も……?)使う武術、迅三郎の前に現れるある大物武将の存在、さらにヒロインである宗氏の姫の意外な素性……この時代の、この舞台ならではの題材選びとその使い方にも、感心させられた次第です。

 史実を、戦争を「面白く」、しかし完全な嘘にならずに描く……簡単なようでいてこの難事を成し遂げている――というのを第1巻の時点で断言するのも少々気が引けますが――本作。
 その作者の名前を、どこかで聞いたことがあると思えば……幕末を舞台としたトリッキーな快作『なまずランプ』の作者でありました。なるほど、あの作品の作者であれば、この内容もあり得ると、思わぬ再会にすっかり嬉しくなってしまった次第です。


 なお、シチュエーションや主人公像といった本作の内容(特に後者)が、某漫画作品に似ているという指摘をいただきました。
 なるほど、絶望的な戦力差の状況にも不敵な態度を崩さず一種天才的なセンスで活躍する「軍人」という主人公の設定、そして何よりもそのビジュアルについては、相当に似通っているという印象は受けます。

 その辺りがどこまで意図的なものであるかはもちろん私にはわかりませんし、また詮索するつもりもありませんが、上に述べた時代ものとしての題材選びの巧みさは、本作の、本作のみの大きな魅力の一つであることは間違いないのであり、それで今は十分だと感じているところです。


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