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2015.03.06

『ぶっしのぶっしん 鎌倉半分仏師録』第1巻 半人半仏の少年を突き動かすもの

 平泉で地神・ミズチを封じるための明星菩薩の仏像を彫る少年・想。しかし顕現した明星菩薩はミズチに右半身を食われ、想も左半身を奪われてしまう。そして鎌倉で想が目覚めた時、彼の左半身は明星菩薩のものと化していた……

 恥ずかしながらこれまでノーチェックだったのですが、書店で見かけて大いに惹かれ、手に取った本作。ぱっと見たところでは、鎌倉時代を初頭を舞台に、少年仏師を主人公とした伝奇風味の芸術もの・美術ものかと思いきや……一言では表せぬような奇妙な、しかし実にユニークな作品であります。

 物語が始まるなり、奥州平泉で暴れ回るのは巨大な地神・ミズチ。
 源頼朝の侵攻で奥州藤原氏が滅亡したために復活したこのミズチを封じるため、主人公の少年仏師・想は来迎術――己の彫った仏像に本物の仏を降ろし、顕現させる技――を以て、明星菩薩を顕現させ(!)、ミズチを迎え撃たんとするのですが――

 ミズチに深手を負わせたものの、菩薩は左半身を食われ、想もまた体を真っ二つに裂かれ……と、いきなり主人公惨死であります。
 しかし、死んだはずの想が目を覚ましてみればそこは鎌倉。体も五体満足で元通りとなっていた想ですが、過去の記憶は失われ、何よりも体の中から明星菩薩の語りかける声が聞こえてくるではありませんか。

 そう、それぞれ半身を失った想と菩薩は、いかなる奇跡か二人(一人一仏?)で一人の仏像人間と化していたのであります。
 源頼朝の命で、かの運慶に預けられた想改め想運。かくて、運慶の下で見習い仏師として働くこととなった想運は……


 なるほど、これは想運が運慶の下で人間として、仏師として再生していくのだな、というこちらの予想は、完全に外れではないものの、物語は意外な方向に舵を切っていくこととなります。

 源平の合戦の最中に焼失した東大寺大仏殿を見事復活させた運慶と彼の家族・弟子たち。そこには記憶を失いつつも、それを半ば前向きに生かして平和な暮らしを楽しむ想運の姿がありました。

 しかし頼朝も列席しての落慶法要の場に現れたのはあのミズチ。謎の少女剣士に操られるミズチを迎え撃つために立ち上がったのはなんと……

 と、ここから物語は一気に巨大ロボットもの(!)あるいは変身ヒーローもの的な色彩を強めていくこととなります。
 巨大な敵と戦うことができるのは、同じく巨大な体と力を持つ者のみ。そして常人では動かすのがやっとのその存在を、自在に動かし、力を与えることができるのは想運のみ――

 ごく普通の人生を送ってきた少年が、突然巨大な力を与えられ、戦いの中に放り込まれる……というのは、時代を超えて描かれる巨大ロボットものの一つのパターンであります。
 そこで描かれるのは、平穏な人生と決別することのためらいと、大きすぎる力を前にしての戸惑いと恐れ、そしてそれをも超える強い意思――そして本作のクライマックスで描かれるのも、まさにそれであります。

 一度は戦いの中で命を落としながらもその記憶を失い、今は平和に暮らす想運が、再び立ち上がることができるのか? そして立つとすれば、彼を突き動かす者はなにか……
 いやはや、まさか本作でこのような熱い展開を見せられるとは予想もしておりませんでした。


 と、思わぬ世界に突入していく本作ですが、その一方で物語の基本的なムードはむしろユルめ。
 特に想運の中の明星菩薩や、顕現する他の仏たちの会話などは、むしろ立川でバカンスを楽しんでいそうな人間くささでありますし、想運を取り巻く人々も、実にキャラの立った連中揃いであります。

 そしてそんな緩急つけたキャラクターと物語の中に見え隠れするのは、今なお続く平家の残党(頭領があの生死不明の大物なのにニヤリ)の暗躍と、想運の存在にある野望を抱いているらしい頼朝の不気味な姿。

 ギャグあり、シリアスあり、アクションあり、伝奇あり――この先、見逃せるわけがありません。


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