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2015.03.18

『星紋の蛍』第2巻 陰と陽の姫君の交わる想い

 石田三成に育てられ、その想いを隠して茶々の影武者となった少女・蛍の姿を描く『星紋の蛍』の第2巻であります。茶々の子・鶴松の誕生、秀吉による天下統一の進展、そして小田原攻めと、天下の情勢が目まぐるしく動いていく中で、彼女の静かな戦いも続くのですが……

 忍びの父と兄を戦で失い、天涯孤独の身の上となったところを三成に拾われた蛍。自らの屋敷で、掌中の珠のように育ててくれた三成に想いを募らせる蛍ですが、しかし美しく成長した彼女を三成が伴って向かったのは豊臣秀吉のもとでした。
 実は彼女は秀吉の側室・茶々と瓜二つ。もとより三成はそれを承知で蛍を育て、彼女を茶々の影武者と考えたのであります。

 残酷な現実に打ちのめされながらも、泣くことを忘れた茶々の姿を目の当たりにした蛍は、彼女を支えるため、影武者となることを決意して――
 というのが第1巻までの物語。続くこの巻はいわば起承転結の「承」として、影武者としての彼女の姿が描かれることとなります。

 この時代、天下統一に王手をかけた秀吉は、日本一の権力者。その秀吉が溺愛する茶々ともなれば、やはりその権勢は並ぶものはなく……と言いたいところですが、しかしそれだけに風当たりも強くなることもまた事実。
 特に彼女が、これまで長きに渡り生まれることのなかった秀吉の男子・鶴松を産んだとすれば、それを祝う者ばかりではなく、内外にそれを呪う者もまた存在するのであります。

 かくて影武者として、茶々を、鶴松を守る蛍……ということで、たとえ戦時でなくとも、戦場でなくとも存在する「敵」との戦いというのは、面白い趣向。
 設定的になかなか表舞台に出ていけない主人公というのは、なかなか難しいのでは……と思っていましたが、このような手があったか――というよりそのための影武者でありましょうが――と感心いたしました。
(いや、思い返せば作者の少女漫画は、いかにヒロインを主体的に物語の中で活躍させてみせるか、という点に常に心を砕いているのでありますが)

 しかし直接的な戦い以上に心に残ったのは、蛍が北政所と対峙した場面であります。
 体調を崩した茶々に替わり、秀吉の正妻たる北政所に対応することとなった蛍。側室であり、自分よりも早く子を産んだ茶々に、決して優しくはない態度を示す北政所に蛍が見せたもの、それは――

 影武者はあくまでも影武者、文字通り「陰」の存在であり、己の想いを示すことは許されぬものでしょう。
 しかしその「陽」たる茶々自身が、己の心を殺し、表に出せぬとすれば。そしてその姿が、やはり己の心を殺さねばならぬ自分と重なるとすれば。

 そこで蛍が見せたのは、茶々のものであり、蛍自身のものでもある、いわば陰陽交わった想いと言えましょう。本作ならではのその想いが描かれたこのシーンは、この巻のハイライトと言えるのではないでしょうか。

 そして後半に描かれるのは、秀吉の小田原攻め。小田原攻めで三成と言えば、そう、今ではすっかり有名になった感のある忍城攻めであります。
 厳しいことを言ってしまえば、三成にとっては初の汚点とも言うべきこの忍城攻めですが、本作においてこれを通じて描かれるのは、三成の素顔、人間的な弱さというのも面白い。

 秀吉の使者として三成の下に向かった蛍は、それまである意味完璧な近臣としての態度を崩さなかった三成の中の人間性というべきものを垣間見る(そして三成がそれを見せたのも蛍なればこそなのですが)ことで、二人の距離が縮まったかと思いきや……


 ……と、ここで初めて触れるのも恐縮ですが、本作はここで掲載誌の休刊により一端中断、未完という形となります。

 全4巻を想定していたという本作においては丁度中間、先に述べたとおり起承転結の「承」での中断というのは、さすがに切りが良いとは言えないのが正直なところであります。
 忍城といえばこの人、と言うべき甲斐姫――史実を考えればこの後、茶々と、つまり蛍とも密接に関わるであろう人物――のキャラクターもなかなかに印象的であっただけに、これからというところでの中断は、まことに勿体ないとしか言いようがありません。

 唯一の救いは、作者もこの続きを、物語の結末までの姿をなんとか描こうとしていることであり――そうであるならば、こちらもその作者の想いを信じて待ち続けるべきでありましょう。
 この先の歴史を考えれば、決して平坦ではない蛍の道の先に、小さな星明かりでもよい、彼女を照らす光があることを信じて……


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