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2015.03.21

『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第2巻 自分自身になるための彼女の戦い

 悲劇の英雄として今なお高い人気を持ち、様々なフィクションに登場する源義経。その義経に意外な運命を背負わせた、きわめてユニークな義経記、いや『義経鬼』の第2巻であります。義経と一心同体となってしまった少女・皆鶴――彼女の運命は、なおも変転を続けることとなります。

 打倒平家のため、鬼の兵法を知るという陰陽師・鬼一法眼のもとを訪れた義経。義経の願いを聞き入れた法眼は、その兵法を体内に持つ己の娘・皆鶴を用いて、ある儀式を義経に施さんとします。
 その儀式は、義経の中に皆鶴を吸収させるというもの。しかし儀式は失敗、いかなることにか、皆鶴の中に義経が吸収されてしまったのであります。

 偶然自分とは瓜二つだったとはいえ、突然その代役を務める羽目になった皆鶴。義経の意志をその身体に眠らせたまま、彼女は義経がかつて暮らし、そして今は打倒平家のために力を借りんとする奥州に向かうのですが……

 と、弁慶などごくわずかの人間を除き、自分と義経が切り離される日まで、己の正体をひた隠して「義経」として生きる皆鶴の苦闘を描く本作。
 しかし意外なことにと言うべきか、この巻の冒頭にて、早くも皆鶴と義経を切り離す方法が発見されることとなります。

 それは、義経の願いを捨て去ること、あるいは義経の願いを叶えること――
 一見単純なことのように見えますが、しかしその「義経の願い」の中身を思えば、それが容易いことではないのはすぐにわかりましょう。そう、義経の願いは、平家を打倒することなのですから……

 彼にとって父母の仇ともいうべき平家。その打倒を願う思いは、ある意味彼の存在意義でもあり――それを諦めさせることは、彼の存在を否定することでもありましょう。しかし願いを叶えようにも、いまこの国を支配する平家はあまりに強大ということも、言うまでもありますまい。

 諸国に平家打倒の機運が高まり、義経の兄たる頼朝が挙兵するという時の流れの中、皆鶴は否応なしに奥州を離れ、西へ向かうこととなるのですが――


 さて、ここで本作を含め、作者の最近の作品を見ると、主人公がある近しいシチュエーションに置かれていることに気づきます。
 それは、信長の小姓として「男」となった『天下一!!』、茶々の影武者とされた『星紋の蛍』、そして本作と――自分自身の本来の姿を、想いを隠し、他人の姿を、パーソナリティを背負わされ、そしてその中で自分自身の生きるべき道を見出すために奮闘することであります。

 ヒロインが本来の己があるべきものからかけ離れた境遇に置かれ、その中でも必死に自己を確立していこうとするというのは、これはある意味少女漫画の王道でありましょう。
 しかしこれらの作品の主人公たちが置かれた境遇の特殊性を考えれば、それに留まらず、一個人が歴史の流れの中でいかに生き抜くことができるか――そんな歴史ものとして一種普遍的なテーマすら感じられるのであります。

 そんな作品群の中でも、本作の主人公・皆鶴は、置かれた境遇の特殊さ、そして背負うこととなった人物の存在の大きさから、特にその度合いが強いと言えましょう。
(そしてその苦しみを、何となく気になる、そして自分の秘密を知ってしまった男性の視線を通じて浮き彫りにするのがまたうまい)

 彼女がいかにして自分自身を取り戻していくのか、あるいは自分自身になっていくのか? そしてそれが歴史の中でいかなる意味を持つのか……
 作者の作品の総決算、というのはもちろん大げさなのですが、しかし少女漫画――少女が読む漫画というより、少女が一個の人間として己の生を確立していく様を描く漫画――として、歴史漫画として、本作の行き着くところは注目すべきでありましょう。


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